研究課題
今年度の研究実績は以下である。(1)任意の点から任意の点へのクォークの伝搬関数を計算するAll-to-allの方法の中で、対生成対消滅がある系のポテンシャルの計算に適用可能と思われたLapH smearing法を計算機コードとして実装し、その性能などを確かめた。また、様々な並列計算機にLapH smearing法のコードを移植し、並列化とその性能向上を行なった。(2)LapH smearing法のテストとして、対生成対消滅がないアイソスピンI=2のππ散乱に対応するポテンシャルを計算し、ポテンシャルに対するsmearingの影響を調べた。その結果、smearingをしない場合とした場合とでは、potentialの形状は大きく異なるが、低エネルギーでの散乱位相差などの物理量は、大きな差がないことがわかった。また、LapH smearingのポテンシャルに微分展開の高次項を取り入れることで、物理量に対するsmearingをしない場合の結果との差がほとんどなくなることもわかった。この結果は、いくつかの国際会議でも発表され、論文として公表された。(3)(2)の結果を受けて、LapH smearing法を対生成対消滅があるI=1のππ散乱に対応するポテンシャルを計算した。この系には同じ量子数を持つρ中間子が共鳴状態として現れることが期待されているが、得られたポテンシャルを解析すると、ρ中間子の質量に対応するエネルギーに共鳴状態が現れることが分かった。格子QCDによるポテンシャルがρ中間子のようなシングルチャンネルでの共鳴状態を記述できることを示したのは世界で初めてである。この成果は国際会議などで発表され、現在、論文を準備中である。
2: おおむね順調に進展している
今年度中にLapH smearingの実装が完了し、また、I=2のππという簡単な系でのテストが終了したので研究は順調に進んでいる。また、I=1のππ系のポテンシャルの計算が成功しただけでなく、ρ中間子が共鳴状態として「発見」されたという成果は(期待していたとはいえ)画期的なものである。その点では、「(1)当初の予想以上に進展している。」と考えても良いが、LapH smearing法によるポテンシャル計算の課題も見えてきたため、「(2)概ね順調に進展している。」と判断した。
LapH smearing法の計算結果から、ポテンシャルにより共鳴状態が記述できることがわかったので、対生成対消滅を含む様々な系にポテンシャル法を適用する計画を推進していく予定である。しかしながら、smearingによる系統誤差のコントロールが難しいので、smearing無しのAll-to-all法の計算の可能性を追求していく。これは若干回り道であるが、信頼できる結果を得るには必要であると考える。smearing無しのAll-to-all法としは以下のような研究方針を考えている。(1)クォーク伝搬関数の低エネルギーのモードの固有関数を厳密に求める。この部分はsmearing無しのAll-to-all伝搬関数を与える。(2)それ以外のモードには、乱数を取り入れた計算をしてsmearing無しのAll-to-all伝搬関数を実現する。乱数を使うことで統計誤差が入ってしまうが、計算コストを大幅に削減することができる。(3)乱数による統計誤差の影響を見るために、LapH法で計算したI=1のππ間ポテンシャルを新しい方法でも計算し、その結果を比較する。(4)問題がなければ、この新しいAll-to-all法を用いて、I=0のππ間ポテンシャルを計算し、その存在が議論となっているσ共鳴状態の研究を行う。(5)さらに、実験によりその存在が示唆されている多くの新奇な共鳴状態の研究にポテンシャル法を適用する。
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