研究課題/領域番号 |
16H03979
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重森 正樹 京都大学, 基礎物理学研究所, 特任准教授 (60608256)
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研究分担者 |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブラックホール / 弦理論 / 微視的状態 / 重力 |
研究実績の概要 |
H28年度は、弦理論における「D1-D5-Pブラックホール」と呼ばれるブラックホールの微視的状態を表す、超層と呼ばれる解の研究を行った。これまでに研究代表者は、超層解の中でも非常に簡単な例の具体的構成に成功し、もっと一般なものを構成するための技術的な基礎固めを行ってきた。H28年度は、この手法を適用することにより、超層解の別の新しい具体例を構成することに成功した。これはまだ一般的な超層解ではないが、以下のような顕著な性質を持つ初めての解である:(1)この解はパラメータを調節することにより、近似的に2次元AdS空間からなる部分(throat)をいくらでも伸ばすことができ、それにより通常のブラックホール解にいくらでも近づけることができる。(2)任意に小さな5次元角運動量を持つことができる。これは、10年ほど前からあった技術的問題を克服するものである。(3)場の理論における双対な状態が正確に分かっている。これは超層解の量子的側面を理解するために有用である。 またさらに、この解は、これまでに知られているブラックホールの微視的状態解よりもある意味数学的に単純である。例えば、その上での波動方程式は変数分離可能である。これは、この解を用いてブラックホールの物理を理解するために重要な利点である。実際、この解に基づいてブラックホールの物理的性質を調べる様々な研究が既に複数なされており(H30年5月時点で当該論文の被引用数38)、本研究はブラックホールの微視的状態に関する研究を活発化させるのに役立っている。本研究は著名誌Physical Review Lettersに掲載され、さらに権威あるEditor's Suggestionに選ばれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度はD1-D5-Pブラックホールに関して、幾つかの顕著な性質を持つ新しいクラスの超層解を顕わに構成することに成功した。「研究実績の概要」に述べたように、この解は物理的に興味深い性質を多く持っており、ブラックホールの微視的物理の理解を深めるために有用であると思われる。また、この解は物理的性質を調べやすいという性質も持っており、これは、今後計画されている、ブラックホールの微視的物理に関する未解明問題の解決への挑戦に役立つものと期待される。 この解は、これまでに構成された解と同様に1つの3次元球面を持つ背景時空を励起することによって得られたものである。当初の研究計画においては、これをもっと一般的な背景時空(2つ以上の3次元球面を持つものなど)に基づいた超層解に拡張することが挙げられていた。しかし、上記のように、1つの3次元球面を持つ背景時空に基づく超層解ですら既に非常に豊かで興味深い物理を持つことがわかった。これは、今回我々が構成した超層解を用いてブラックホールの物理を調べる研究が既に複数行われていることからも明らかである。この理由により、1つの3次元球面に基づいた超層解の具体的構成及びその物理的性質の解析に、当初の計画よりも長めに時間を割くことにする。もっと一般の背景時空に基づいた超層解の構成も後に行う計画であることに変更はない。これは、H28年度の研究の中で新しく分かったことを更に調べるための変更で、ブラックホールの微視的物理の理解を深めるという最終目的のために必要な計画変更であり、全体を鑑みれば計画の進捗状況に影響を与えるものではない。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度も、弦理論における「D1-D5-Pブラックホール」と呼ばれるブラックホールの幾何状態を表す超層解の研究を行う。「現在までの進捗状況」に述べたように、超層解の中でも、1つの3次元球面に基づくものに注力し、その具体的構成を行う。例えば、H28年度に構成したものは漸近的にAdS空間となるものであったが、それを漸近的に平坦なものに拡張できるかを調べる計画である。これは、超層の物理的性質を調べるために重要となってくる拡張である。また、超層解は背景時空上に運動量を持つ励起を加えることによって構成されるが、完全に一般な励起を加えた場合の解の構成はまだ行われておらず、これも行う計画である。それが終わった後、もっと一般の背景時空に基づいた超層解の構成に進みたい。
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