H31年度も引き続き、弦理論における「D1-D5-Pブラックホール」と呼ばれるブラックホールの微視的状態を表す超層解の研究を行った。特に、AdS/CFT対応と量子統計力学的方法を用いることにより、背景時空に非自明な3次元球面を1つだけ含む超層解の数を数え、そのエントロピーを評価することに成功した。これにより、この種の超層解はD1-D5-Pブラックホールのエントロピーを再現するにはその数がパラメトリックに足りないということが明らかとなった。これは、これまでの超層解の限界を示すとともに、ブラックホールのエントロピーを再現するために超層解をどのように拡張するべきかを指し示すものである。特に、背景時空に複数の3次元球面を含む解が重要であり、そのために、特に2つの球面を持つ超層解について予備的考察を行い、その構成方法を発展させた。また、本質的な弦理論的励起を含めなけれればならない可能性についても吟味を行った。そのため、フランス・サクレー研究所を訪問し、海外研究協力者やその他の研究者とこれからの方向性についての活発な議論を行った。 また、数年来の研究のまとめとして、超層解に関する招待レビュー論文 "Superstrata" (DOI: 10.1007/s10714-020-02698-8)をGeneral Relativity and Gravitation誌に寄稿した。これは超層解の基礎となる理論および超層解の具体的構成法をAdS/CFT対応の両面から解説するだけではなく、さらに近年の研究のレビューをも含むもので、当分野のことを学びたい研究者へのイントロダクションとなるものである。
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