• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実績報告書

不安定核停止標的を用いた宇宙原初リチウム7合成問題の研究

研究課題

研究課題/領域番号 16H03980
研究機関大阪大学

研究代表者

民井 淳  大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (20302804)

研究分担者 牧井 宏之  国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究職 (20425573)
山口 英斉  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 講師 (30376529)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワードリチウム7問題 / ビッグバン元素合成 / 不安定核停止標的 / インプラント / 共鳴反応
研究実績の概要

近年宇宙誕生時の元素合成の過程を精細に計算できる様になったが、リチウム7の合成量のみ宇宙観測と合わないことが大きな問題となっている。このリチウム7問題解決の鍵となるベリリウム7と重陽子の共鳴反応を、従来にない高精度にて測定することを目的とする。元素合成過程において重要な低エネルギー領域での実験を可能とするため、不安定核であるベリリム7を生成して金標的に埋め込み、重陽子との反応を測定する標的として用いる計画である。
東京大学原子核科学研究センターのCRIB装置においてベリリム7原子核の生成量が最大となる様に装置を最適化し、金標的に埋め込む開発実験を行った。リチウム7ビームと水素ガス標的により毎秒2×10の8乗個のベリリウム7の生成に成功した。飛行中のベリリウム7を単離した後再収束し、直径2mmのコリメータを通して金標的に埋め込んだ。ベリリウム7の量を自然崩壊によって生じる477 keVのガンマ線を検出することにより計測し、1 平方mmあたり毎秒1×10の7乗個の埋め込みに成功したことを確認した。本実験の実施に十分な単位時間あたりの生成・埋め込み密度を達成することに成功したことは大きな成果と言える。
本実験では2日の埋め込み時間をかけ標的を製作する。製作した標的を原子力機構の東海タンデム加速器施設に移送し、重陽子ビームを照射して反応測定実験を行う計画である。本実験実施にむけた真空散乱槽と標的システムの設計・製作・試験、シリコン検出器の購入・テストを進めている。前年度のテスト実験において、真空槽の素材に由来する到達真空度の問題、および重陽子ビームにより発生する標的内の熱の伝送方法に関する問題があることが分かった。これらを解決出来るように設計を変更した装置を製作した。本実験に向けた準備は整ったと言える。本実験を平成30年4-6月の時期に実施する予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

東京大学原子核科学研究センターのCRIB装置において、ベリリウム7生成量を最大化する開発実験を行い、1 平方mmあたり毎秒10の7乗個の埋め込みが可能であることを確認した。一方で前年度のテスト実験において、真空槽の素材に由来する到達真空度の問題、および重陽子ビームにより標的内で発生する熱の伝送方法に関する問題があることが分かっている。これらを解決するため、素材から樹脂成分をとり除き、また上流真空管から薄膜によって遮断されたビーム導入口を設けた真空槽を設計・製作した。また標的ホルダの設計を見直し、セラミックによる電気絶縁と耐熱を行うと同時に熱伝導ラインと放熱系を改善した標的装置を新たに設計・製作した。単体試験において両システムとも期待通りの性能を持つことを確認した。
本実験では、製作した標的を原子力機構の東海タンデム加速器施設に輸送し、重陽子ビーム照射して発生する陽子を検出する予定である。陽子検出に用いるシリコン検出器を追加購入し、3連検出器2セットによる同時測定を可能とする検出器ホルダを製作した。α線源を用いて検出器の単体試験を行い、十分な性能を有することを確認している。検出器の前面には低エネルギー散乱粒子を排除するための減衰板と立体角を明確にするためのコリメータを設置できるようにしている。並行して検出器のデータ収集システムと回路の準備を進めている。
これら埋め込み実験の進行と並行して、リチウム標的に陽子ビームを照射することにより標的内にベリリウム7を生成して不安定核標的とするアクティベーション法を考案し、神戸大学のタンデム加速器を用いた試験開発を進めている。
研究の進展状況について国際会議で発表するとともに、世界の有識者との議論、装置に関する情報の取得、研究展開に関する相談を目的とした海外出張を行った。

今後の研究の推進方策

平成29年度の開発によって、所定の単位時間あたりのベリリウム7埋め込み密度を達成したことは大きな成果である。平成30年度の本実験実施に向けて、装置の開発と準備を進めている。東京大学原子核科学研究センターのCRIB装置を用いた埋め込み実験のビームタイムは4-5月に、原子力機構の東海タンデム加速器施設を用いた重陽子散乱実験のビームタイムは6月に実施される予定で、研究分担者を含め共同研究者とともに準備を進めている。また、重陽子散乱に用いる真空槽・標的システム・検出器全体のビームテストを東海タンデム加速器施設において4月はじめに行う予定である。この試験では、検出される陽子と同じエネルギーの陽子ビームを加速し、金標的から弾性散乱で放出される同エネルギーの陽子を検出するという方法を行う。
本実験では、重陽子のビームエネルギーとしてデータのある1-2 MeV領域から測定を始め、ビッグバンのエネルギー領域である0.1-0.4 MeVに徐々に下げながら測定する予定である。厚い標的法を用いるため、ビームエネルギーが標的内で徐々に減衰しながら反応を行うことになり、散乱陽子のエネルギーを検出することで0.1-0.4 MeVの領域を1回の測定で行うことができる。ただし標的内のベリリウム7の密度分布とビームのエネルギー変化を正確に見積もることが必要であり、シミュレーションと高いエネルギーでの既存データとの比較を通してデータの解析と確認を進める。
本実験データの取得後ただちにデータ解析を進め、学術論文としての出版準備を行う。日米合同物理学会や南アフリカで開催される国際会議において実験結果を発表する。元素合成過程への影響の定量的検討と、今後の研究展開に関する議論を有識者と行う予定である。これらの実験実施と国際会議に旅費を使用する。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件)

  • [国際共同研究] TU-Darmstadt(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      TU-Darmstadt
  • [雑誌論文] Search for weak M1 transitions in 48Ca with inelastic proton scattering2017

    • 著者名/発表者名
      M. Mathy, J. Birkhan, H. Matsubara, P. von Neumann-Cosel, A. Tamii他
    • 雑誌名

      Physical Review C

      巻: 95 ページ: 054316-1-11

    • DOI

      10.1103/PhysRevC.95.054316

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Test of the Brink-Axel hypothesis for the pygmy dipole resonance2017

    • 著者名/発表者名
      D. Martin, P. von Neumann-Cosel, A. Tamii他
    • 雑誌名

      Physical Review Letters

      巻: 119 ページ: 182503 -1-5

    • DOI

      doi.org/10.1103/PhysRevLett.119.182503

    • 査読あり
  • [学会発表] E1 Response with Inelastic Scattering of Protons2018

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Tamii
    • 学会等名
      IIIrd Topical Workshop on Modern Aspects in Nuclear Structure -- The Many Facets of Nuclear Structure
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 初代天体の進化に関わる核反応2018

    • 著者名/発表者名
      民井淳
    • 学会等名
      日本物理学会シンポジウム「特異的天体環境における量子現象と元素合成」
    • 招待講演
  • [学会発表] Development of Light-Ion Reaction Measurements with Radioactive Target2018

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Tamii
    • 学会等名
      The 7th Yamada Workshop on RI Science Evolution 2018 (RISE18)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Constraints on Nuclear EOS by Nuclear Response Experiments2018

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Tamii
    • 学会等名
      Physics of Core-Collapse Supernova and Compact Star Formations
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Electromagnetic Response of Nuclei Relevant to the Nuclear Equation of State Studied by Proton Inelastic Scattering2017

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Tamii
    • 学会等名
      Gordon Research Conference on Nuclear Chemistry
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Electric Dipole Response of NucleiStudied by Proton Inelastic Scattering2017

    • 著者名/発表者名
      Atsushi Tamii
    • 学会等名
      International Symposium on Physics of Unstable Nuclei (ISPUN17)
    • 国際学会 / 招待講演

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi