宇宙誕生時(ビッグバン)の元素合成過程の精密計算において、リチウム7の合成量のみ宇宙観測と合わないことが大きな問題となっている。このリチウム7問題解決の鍵となるベリリウム7(7Be)と重陽子との共鳴反応を、従来にない高精度にて測定することを目的とする。開発を進めてきた不安定核停止標的技術を適用し、不安定核である7Beと重陽子との反応を測定する手法が画期的である。 2018年5月に東京大学原子核科学研究センターのCRIB装置を用い、金標的の直径3mmの領域に7Beを1.9×10の12乗個埋め込むことに成功した。標的を原子力機構の東海タンデム加速器施設に輸送し、6月に重陽子ビームによる共鳴反応実験を行った。また、8月と2019年1月の2回にわたり神戸大学海事科学研究科のタンデム加速器を用いた実験を行い、陽子ビームを照射したリチウム標的放射化法により直径3mmの領域に1.5×10の13乗個の7Beを生成することに成功した。引き続いて重陽子ビームを照射し、共鳴反応測定実験を行った。 標的中の7Beの量は自然崩壊によって生じる477 keVのガンマ線を検出することにより計測した。7Beと重陽子との反応によって生成する陽子は、3連もしくは4連のシリコン検出器による同時計測によって計数した。宇宙元素合成に重要な0.1~0.4 MeVのエネルギー領域での共鳴反応観測を、バックグラウンドを十分に下げた状態で行うことができ、目的を達成する高精度のデータを取得できたことを確認した。 この研究により博士号を取得する予定の学生を中心に、現在データの解析と最終結果のまとめを進めている。これらの実験開発状況および測定データが宇宙元素合成計算に及ぼす影響について、国際会議で発表するとともに各分野のエキスパートとの議論を行った。
|