研究課題/領域番号 |
16H03982
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鈴木 博 九州大学, 理学研究院, 教授 (90250977)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 格子場の理論 / 時空対称性 / ゲージ理論 / くりこみ / グラディエント・フロー |
研究実績の概要 |
当該年度は以下の研究を行った:(1) グラディエント・フローとWilson流のくりこみ群との関連を議論した研究。特に、非自明な固定点を持つ模型においてグラディエント・フローにより非摂動論的に定義される結合定数から、対応するくりこみ群の流れを導いた。(2) グラディエント・フローで構成したエネルギー運動量テンソルから、重力場中のカイラルアノマリーを計算する研究。ここでは、正しい結果を得るため並進Ward-高橋関係式を回復する局所相殺項を付け加える必要かあり、この点を解消するのは今後の課題である。(3) 2次元のN=2 Wess-Zumino模型の低エネルギー極限が超共形場理論になっているか(いわゆるランダウ-ギンツブルグ記述)を数値シミュレーションにより検証する研究。(4) 4次元N=2超対称Yang-Mills理論における超対称カレントのグラディエント・フローを用いた普遍的表式。この理論はSeiberg-Witten理論の文脈で大きな関心を持たれるものであり、我々の表式は将来この理論の格子シミュレーションが行われる際に、超対称性を回復するパラメター調整において有用になると考えている。(5) グラディエント・フローを用いたエネルギー運動量テンソルの普遍的表式における2ループ補正の影響の研究。これは最近Harlander達によって与えられた2ループの係数の影響を、クエンチQCDの格子シミュレーションを用いて検証する研究である。予想されるように、2ループの係数の使用は、系統誤差を一般に小さく抑えることを確認した。(6) グラディエント・フローとWilson流のくりこみ群との関連を一般のスカラー場理論で議論した研究。これは(1)と類似であるが、より踏み込んで両者の場の変数の間に直接関係を付けようというものである。これら以外にも有限温度量子色力学における格子シミュレーションを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記、研究実績で詳しく述べたように、当該研究課題に関する研究を精力的に行い多くの研究論文を発表することができた。当初の研究計画の路線に沿った形で実質的な進展を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な方策に変更はない。具体的には、まず数値的研究として、有限温度量子色力学における各種物理量の決定に向けた研究に精力的に取り組む。具体的には、グラディエント・フローによるエネルギー運動量テンソルの構成を用いた状態方程式や粘性係数の測定である。これまでWHOT Collaborationとの共同研究により、いくつかの温度点に対して、物理的質量のクォークの場合と多少重いクォークの両者に対して測定を行ってきており、まずまずの結果を得ている。ただしこれらはほぼ単一の格子間隔に対してのもので、物理量の真の値を得るには、連続極限をとるためにさらに多くのパラメターでの配位生成が必要である。これを手に入る計算リソースの許す範囲で精力的に行う。理論的な研究としては、グラディエント・フローによるエネルギー運動量テンソルの普遍的表式の位置が他の演算子の位置と一致した際の並進Ward-高橋恒等式の破れをどう解決するかという問題がある。これを解消するには、エネルギー運動量テンソルが含む場の運動方程式に比例した項の不定性を用いるのが自然と期待されるが、この予想を検証し、補正項の具体的な表式を得ることを目指す。別の理論的研究としては、グラディエント・フローに基づくエネルギー運動量テンソルの普遍的表式のフロー時間ゼロでの漸近形の研究がある。これは、表式の応用上極めて重要な研究である。また別の理論的研究としては、グラディエント・フローとWilson流くりこみ群との関係の明確化が挙げられる。関連して、3次元スカラー場理論におけるエネルギー運動量テンソルのグラディエント・フローによる普遍的表式から、Wislon-Fisher固定点における臨界指数の決定を行う可能性を考察する。こうした様々なテーマを数値的・解析的に研究することで、格子場の理論における時空対称性の実現に対してさらなる知見を得る。
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