当該年度は以下の研究を行った:(1) S1コンパクト化された時空での赤外リノマロンに関する一連の研究。摂動論の情報から非摂動論的効果の情報を引き出す方法論はリサージェンスと呼ばれ、近年活発に研究されている。この文脈で、S1コンパクト化された理論では、リノマロンと呼ばれる摂動級数の発散の原因がバイオンと呼ばれる半古典的配位の効果で打ち消されるという大胆な予想がなされたが、その後の研究により、この予想の成否について混乱が続いていた。この状況を解決すべく精力的に研究を行い、5篇の論文を発表した。(2) 2+1フレーバー量子色力学の有限温度における熱力学量の数値シミュレーションによる計算。具体的には、グラディエント・フローによって構成したエネルギー運動量テンソルを用いて状態方程式の測定を行った。ここでは、Harlanderらによって計算された、2ループレベルでの小フロー時間展開係数を用いることで系統誤差の小さな結果を得た点が新しい。 (3) K中間子のBパラメターを評価する際に必要な4フェルミ演算子のグラディエント・フローによる構成の定式化。これは格子ゲージ理論におけるカイラル対称性の破れから来るこの演算子への望ましくない輻射補正を避けることを狙った定式化である。(4) クエンチQCDにおける1次相転移温度直上での高温相と低温相間の潜熱の数値シミュレーション計算。これもグラディエント・フローによって構成されたエネルギー運動量テンソルの物理的問題への応用である。(5) グラディエント・フローの拡散方程式に基づいた、ゲージ理論における厳密くりこみ群方程式の定式化。これはゲージ対称性を明白に保つ全く新しいタイプの厳密くりこみ群方程式で、今後の幅広い応用が待たれる。(6)これら以外にも、エネルギー運動量テンソルの小フロー時間展開のゼロフロー時間外挿の関数形のくりこみ群的評価の研究を行った。
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