研究課題
超新星残骸のX線撮像分光により、その起源となった超新星の爆発メカニズムや親星の情報を引き出す手法が、観測・理論の両面から整備されてきている。本研究では革新的なX線観測装置の開発およびその観測により、その手法をさらに推進するものである。今年度は、ひとみ衛星に搭載したX線CCDカメラ「SXI」で得られたデータの解析をおこなった。SXI は、38分角平方の広視野と 0.4-12~keV の広帯域を撮像分光する最新鋭のX線CCDカメラである。我々はひとみ衛星打ち上げ前の数年をかけて SXI を開発し、打ち上げ後も無事に動作させた。ひとみ衛星は残念ながら打ち上げ後40日程でその機能を喪失してしまったが、その中で SXI は20日程度データを取得することができた。駆動パラメタ調整前の期間であったため、光漏れやセグメント間クロストークの影響がデータに見られたが、それらは原因を特定し対策を講じることで、その後の観測には影響を及ぼさないことを示すことができた。また、短い期間ではあったものの、これらのデータはアーカイブ化して公開する。それにむけてユーザーが即解析できるように、機上キャリブレーションをおこなった。性能はおおむね地上較正試験から予想されるものであり、SXI はX線CCDカメラとして期待通りの性能を発揮したと言える。これらの結果は、日本天文学会や、世界中の天文衛星のキャリブレーションについて議論する IACHEC 会議で報告をおこなった。さらに、ひとみ衛星の実験報告書の一部としてまとめた。ひとみ衛星は拡がったX線天体に対して精密分光を初めて可能にするカロリメータ「SXS」を搭載していた。SXS を用いたペルセウス銀河団の観測により、鉄輝線の詳細な診断をおこない、乱流による圧力がガス圧の数%以下であることを初めて示した。
2: おおむね順調に進展している
ひとみ衛星は機能を消失し、これ以上、新たな観測データを得ることはできないが、幸いにも機能消失前に複数の超新星残骸を観測し、CCDとカロリメータによるデータを取得することができている。CCD については前述の通り、機能検証とキャリブレーションを終え、データ解析ができる状態まで仕上げた。カロリメータについても、ゲートバルブが閉じた状態であり、エネルギー較正装置であったModulated X-ray Sources を駆動していない時期だったため、検出効率やゲインによる不定性があったが、これらもキャリブレーションを通じて不定性を定量的に評価している。現在は解析を進めており、その結果から親星や爆発メカニズムの起源を探る。これらのデータは、過去最高の質を有する超新星残骸のデータであり、得られた結果は将来の観測機器開発・観測方針の指標にもなる。よって、ひとみ衛星の消失はあったものの、およそ当初の目的に沿って進めることができたといえる。
今後はまず、ひとみ衛星で取得したデータの解析を進めて、カロリメータで取得した貴重な結果を論文化していく。また、SXIのまとめ、および、軌道上動作・較正についても論文化を進める。一方で、代替機計画を推進すべく、SXI での経験を踏まえて、新しい広視野X線CCDカメラの開発を進める。超新星残骸の観測については、すざく衛星で取得されたデータを中心にアーカイブデータの解析を進めていく。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)
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