研究課題/領域番号 |
16H03983
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
森 浩二 宮崎大学, 工学部, 准教授 (00404393)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | X線CCD / 超新星残骸 |
研究実績の概要 |
今年度は、ひとみ衛星の後継となる XRISM 衛星に搭載するX線 CCD 素子の開発を進めた。ひとみ衛星で使用したX線 CCD からの変更点は最小とすることを基本的な方針とした上で、電荷転送路へのノッチ構造の導入と、可視光遮断性能の改善をおこなうこととした。前者により、放射線損傷による電荷転送効率の劣化度合の低減が期待できる。実際に試作素子に対して、陽子照射実験をおこない、期待通りに放射線耐性が向上していることを確認した。この結果は国際学会で発表し、論文にまとめた。後者については、表面遮光膜の改良と素子端面での遮光をおこなう必要があった。表面遮光膜については成膜方法を変更し、素子端面の遮光は端面から入射した可視光がセンサー層に入らない構造を導入した。その結果、表面遮光膜のピンホール数も端面からの可視光入射の影響も一桁抑えられることがわかった。これらは国内学会で報告をおこなった。
また、X線 CCD で取得した天体のデータ解析について、新しい手法を確立した。この新しい解析手法というのは、周辺ピクセルの情報からその時々のペデスタルを推定するものである。昼地球データのようにベデスタルの変動を引き起こす可視光の入射量が激しく変動する場合には、機上でのペデスタル推定が追い付かないことがある。新手法はこのようなデータに対して特に有効であることがわかった。この初期成果を、国内学会で報告した。
天体のデータ解析については、Ia 型超新星残骸の代表例である Kepler の超新星残骸をチャンドラ衛星で観測したデータの解析を進め、Fe ejecta が非対称に膨張している様子を確認した。また、超新星残骸 Cygnus Loop の南西部の精密分光観測をおこない、電荷交換反応およびイオン化した吸収物質の存在を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ひとみ衛星でおこなうはずであった、カロリメーターによる超精密X線分光とそれと対を成す広視野X線CCDカメラによるX線撮像分光は、次の XRISM 衛星で実現することとなった。X線CCDカメラ開発においては、基本的にはひとみ衛星搭載の SXI をベースとして製作をおこない、X線CCD素子について光漏れ対策や電荷転送効率の向上を狙った改良を施すこととした。昨年度は陽子照射放射線損傷試験、可視光照射光漏れ検証試験などをおこない、改良点の有効性を実証した。以上により、XRISM 衛星に搭載するX線 CCD 素子の仕様を確定させ、製造段階に入ることができた。また、周辺ピクセルの情報からその時々のペデスタルを推定するX線CCDデータ解析の新手法は、ひとみ衛星のX線 CCD カメラのデータを検証する過程で産まれた。この手法を遡って、すざく衛星に適用し、昼地球データに対して有効性を確認した。XRISM 衛星でも使用可能である。
超新星残骸のデータ解析については、Ia 型超新星残骸の代表例であるケプラーの超新星残骸において、Fe ejecta の非対称膨張の様子を確認した。Fe は星の最内殻で元素合成される元素の1つであり、爆発機構や親星の起源を探る上で重要な観測結果を得ることができた。超新星残骸 Cygnus Loop の南西部の精密分光観測は XMM-Newton に搭載された分散分光器を用いて、実施したものである。点源のみならず、超新星残骸においても点源状構造に着目すると、精密X線分光が可能になる例である。XRISM 衛星によってもたらされる精密X線分光に先駆けとして、将来の観測立案・データ解析に役立つことが期待できる。
以上により、本研究はおよそ当初の目的に沿って進めることができたといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、XRISM 衛星に搭載する新しい広視野X線CCDカメラの開発を順次進めていく。現在は、素子製造メーカーから納品されたフライト候補の素子の性能を測定し、フライト素子を選定している段階である。今年度はさらに、選定した素子に対して地上キャリブレーションを実施して、実際のカメラに組み込んでいく作業へと進む。キャリブレーションについては、ひとみ衛星で実施した内容よりもよりよい手法を検討している。打上げまでのスケジュールが決まっている中で、如何に確実に安全に開発を進めていくかが鍵となる。前回のノウハウを活かしながら、一方で、同じ作業であっても作業者も場所もモノも違う点を考慮し、必要な部分に注力して開発を進めていく。
超新星残骸のデータ解析については、他の衛星で取得された SNR のデータに注目し、データ解析を進める。特に将来の XRISM 衛星での精密X線分光を意識して、それにむけたデータ解析をおこなっていく。これまでの衛星の中では、すざく衛星が拡がった天体に対してもっとも高いエネルギー分解能で観測を実施しており、このデータに着目していく。また、新に確立したバックグラウンド推定の手法を、すざく衛星の昼地球データに用いて、輝線中心値や輝線幅の正確な評価をおこなう。この手法は特に軟X線側で効果を発揮する様子が見られており、N,O 輝線の評価に特に注目して解析を進める。加えて、他衛星のX線 CCD についても、同様の手法が適用できるか検討する。
|