研究課題
原子核のベータ崩壊における時間反転対称性の破れを探索するMTV実験を推進する本研究は、加速器を用いて生成される偏極リチウム-8核のベータ崩壊を用いたデータ収集を完了し、主として当該年度はデータ解析と、リチウム-8核を用いない、放射線源を用いた検出器の応答データの収集、そして使用を終えた研究機器の解体作業を行った。本研究で進めるMTV実験は、その主目的である時間反転対称性を破る効果が含まれる電子の横偏極であるR相関と、時間反転対称性を破らない電子の横偏極であるN相関双方に感度がある。当該年度のデータ解析においては、R相関を最もよい精度で検証する為のデータ解析を進め、偶然同時計数による系統誤差の混入の定量的な評価方法の確立を行った。特に、制御可能なパラメター二つを含めた系統誤差のモデル化を行い、統計的信頼性の向上とその評価を進めた。結果として信頼性は目的とする水準にほぼ達し、物理の結果として公表が可能な状態に近づける事が出来た。一方、N相関に関しては実験データ取得直後よりその兆候が見られており、これに関しても制御可能なパラメターを含めたモデル化解析を進め、その有意性の検証を進めた。加速器を用いたMTV実験で使用した機器のうち、一部を現場での較正試験の後に解体して持ち帰り、宇宙線や放射線源を用いた較正用基礎データの収集を続けている。R相関とN相関にはそれぞれ、標準模型にて理論的に終状態相互作用が予言されており、これらが予言通りのものであるかを検証する際、そのエネルギー依存性が重要となる。当該年度には、このエネルギー依存性の兆候がデータとして見られており、今後はこのエネルギーの情報を得るための解析と較正試験を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
加速器を用いて生成された偏極リチウム-8核のベータ崩壊のデータ収集は予想以上の進捗でそれを完了し、十分な統計精度を達成する事ができた。また、当初予想しきれていなかった系統誤差のモデル化に伴う困難に関しても、これの原因を特定し、統計的有意性を議論する事が可能となった。
現在、R相関、N相関共に物理解析の最終段階に達しており、研究期間内に物理結果をまとめられる見込みである。一方、当初の計画ではエネルギー依存性の測定をシンチレーション検出器で行う予定であったが、これを電子の多重散乱の広がりから評価する解析と測定を進めており、これらの結果を今後まとめる事で、観測された現象の信頼性を一層向上させる予定である。
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