研究課題
原子核のベータ崩壊における時間反転対称性の破れを探索する、カナダのTRIUMF研究所におけるMTV実験を推進する本研究は、加速器を用いて生成される偏極リチウム-8核のベータ崩壊を用いたデータ収集を完了し、さらにリチウム-8核を用いない、放射線源を用いた検出器の応答データの収集、そして当該年度は使用を終えた研究機器の解体作業を完了させた。本研究で進めるMTV実験は、その主目的である時間反転対称性を破る効果が含まれる電子の横偏極であるR相関と、時間反転対称性を破らない電子の横偏極であるN相関双方に感度がある。当該年度のデータ解析においては、飛跡再構成プログラムの抜本的な改造を行い、偶然同時計数による系統誤差の混入の原因を多く除去する事に成功した。加えて、それでも残留する系統誤差の定量的な新たな評価方法の確立を行った。特に、検出器の応答に対するフルシミュレーションを実行し、系統誤差の見積もりの信頼性を大幅に向上させる事に成功した。結果として信頼性は目的とする水準にほぼ達し、物理の結果として公表が可能な状態に近づける事が出来た。観測されたベータ線の散乱非対称性から物理的な相関係数に換算する偏極分解能の精密な計算と評価も進め、最終結果に近づいている。R相関とN相関にはそれぞれ、標準模型にて理論的に終状態相互作用が予言されており、これらが予言通りのものであるかを検証する最終段階に達しており、最終年度にはこの公表を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
実験準備、実験遂行が予定通り完了し、データ処理も最終的な物理解析の段階に達しており、残るは成果公表に向けた段階に達している。
現在、R相関、N相関共に物理解析の最終段階に達しており、研究期間内に物理結果をまとめられる見込みである。さらに、これまでのデータ解析に加えて検出器の応答を含めたフルシミュレーションも実行しており、系統誤差の理解を一層深めた形で観測された現象の信頼性を一層向上させた公表が可能という見込みである。
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