研究課題/領域番号 |
16H03991
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
野尻 美保子 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (30222201)
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研究分担者 |
伊部 昌宏 東京大学, 宇宙線研究所, 准教授 (50599008)
竹内 道久 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (60749464)
遠藤 基 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (70568170)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 素粒子論 |
研究実績の概要 |
強い相互作用におけるCPの破れの問題の有力な解として Peccei-Quinn(PQ) 機構が考案されているがその機構は大域的対称性に基づいており理論的に不満足な点が多い。伊部はゲージ対称性によって高い精度で保護されているPQ機構を提案した。またその機構を応用し、超対称性の力学的破れの模型とPQ対称性の自発的な破れが同時に実現する模型を考案した。また、この模型ではTeV scale にカラー電荷を持つ新粒子が予言され LHC 実験によって検証可能であることを示した。 竹内は2つのヒッグス2重項を含むPQ模型のドメインウォール問題を、一つのクオークのみがPQ電荷を持つような模型で解決し、トップクオークのみがPQ電荷を持つ場合に予言されるトップ稀崩壊 t→h c/uがLHC実験において軽微なイベント超過と符合することを指摘した。またこの模型が、最新のLHCのヒッグスの測定結果とも無矛盾であることを示した。 遠藤はK中間子崩壊に現れる理論からのずれが超対称標準模型のシグナルである可能性を調べ、超対称標準模型におけるグルイーノ粒子がK中間子崩壊における大きなCP対称性の破れを引き起こす可能性があることを示した。また、この模型が近い将来にLHCb実験やKOTO実験によって今後検証することを示した。また、ミュー粒子異常磁気モーメントにおけるずれと暗黒物質に対する実験的制限から、このようなずれを説明する超対称標準模型が近い将来に暗黒物質直接探索実験やレプトン加速実験により検証できることを示した。 野尻は超対象模型で軽いことが期待されるスカラートップ粒子においてフレーバの破れを探索する方法を検討し、終状態にトップクオークとチャームがあるモードの感度について評価を行った。また暗黒物質の生成のシグナルであるモノジェットのイベントについて、親粒子を推定する方法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
伊部は本研究計画で提案したゲージ対称性に基づく PQ 機構の理論考察およびエネルギーフロンティアにおける新手法をもって新しい物理パラダイムの構築を模索することを目指している。この機構は強い相互作用におけるCPの破れの解を与える新たなパラダイムとなり得え、新たな新物理探索の突破口を与え得ると期待している。遠藤は標準理論の予言値からずれているプロセスに着目し、超対称標準模型に注目して研究を進めてきた。報告されているずれの中には超対称標準模型では説明することができないものもあり、さらに広い範囲の新物理の研究を着手して進めている。竹内はトップクオークのみがPQ電荷を持つ模型については以前から研究を行っていたが、LHCの最新結果においてこの模型の予言であるt → h c/uプロセスに超過が見られたことにより、最新のヒッグスの性質測定と綜合して興味深い結果が得られた。TOP2017で招待講演を行った際にも本研究結果についての発表を行い、広く結果を周知させることができた。また野尻は NLO を使った精密な予言や charm tag 等を応用する方法について研究をすすめ、成果を会議等で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
野尻は引き続き、HLあるいは HE-LHC におけるスカラートップにおけるフレーバーの破れ、NLO generator を利用した新物理探索の研究行うとともに、機械学習を用いて、ジェット構造を定量化することで新物理の探索を容易にできないか検討する。 伊部は PQ機構においてどのようなタイプの模型が LHC 実験で検証可能かについての考察する。また R-axion が LHC 等における検証可能性を調べる。R-対称性は超対称性理論が持ち得る対称性で、超対称の破れた真空が安定的に存在するための必要条件を与えるが、このR-対称性が自発的に破れた場合には R-axion と呼ばれる擬スカラー粒子の存在が予言される。特にゲージ伝搬型模型においては質量が 1GeV 以下の R-axion が可能であるが、この粒子は長寿命であるため特徴的なシグナルを予言すると予想している。 竹内は昨年度検討した模型を拡張して、u, c, lに特徴的な模型を考察する。この模型では、軽い擬スカラーヒッグスAが必要となり、特徴的なシグナルとして、トップの稀崩壊 t → A c/uが予言される。また g-2 にも特徴的な差が現れると期待される。 遠藤はこれまでに引き続き素粒子標準理論を超える新物理のシグナルに注目して研究を進める。とくに精密測定実験で報告されてきたシグナルの多くは、これまでのLHC実験における新粒子の直接探索実験の結果とは矛盾せず、しかも多くの場合に他の精密測定実験に特徴的なシグナルを予言する。一方で、これまでに主にターゲットに据えてきた超対称標準模型では必ずしも説明することができないシグナルも報告されている。これらのシグナルが本当に新物理の証拠である場合には、これまでとは異なる解析が必要になる。そのため、超対称標準模型だけではなく、さらに広い範囲の新物理をターゲットにして研究を進める。
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