研究課題/領域番号 |
16H04002
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
赤井 一郎 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 教授 (20212392)
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研究分担者 |
島本 知茂 熊本大学, パルスパワー科学研究所, 技術専門職員 (70419638)
岩満 一功 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教室系技術職員 (00768236)
細川 伸也 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (30183601)
市川 聡夫 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (30223085)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 励起子 / ボーズアインシュタイン凝縮 / 超低温 / 量子凝縮相転移 / 自発的空間量子干渉性 / データ駆動科学 |
研究実績の概要 |
励起子ボーズ・アインシュタイン凝縮(X-BEC)状態の巨視的量子状態の応用は、光物性の重要な研究テーマである。本研究では、僅かに格子定数の異なる基板間に融解・エピタキシャル再結晶化させた亜酸化銅薄膜結晶を対象とし、3He冷凍機型光学クライオスタットを用いて、X-BEC状態の探索とその物性解明を目的とする。 当該年度は、校正された酸化ルテニウム温度計で1K以下の試料温度を計測して到達温度の校正を行った結果、既存の3He光学クライオスタットで0.8Kが実現できていることを示した。さらに、1K以下の超低温で長い積算時間で光学データを取得することを実現するため、実験環境の整備に努めた。3Heガスは循環システムを用いるが、液体4Heはクライオスタットに導入するワンショット測定であるため、液体4He導入容量の増大とその排気システムの整備を行った。 また弱励起条件で発光スペクトルを計測し、励起子をトラップするポテンシャルを形成する2次元性応力効果について詳細に調べた。その結果、基板間でのエピタキシャル成長には2つの異なる成長モードが存在し、試料上の励起場所を選択することによりそれぞれの領域を選択できることに加え、それぞれの領域で発光スペクトルの偏光特性が異なることがわかった。亜酸化銅に2次元等方的圧縮応力が印加された領域では、オルソ励起子は2つの状態に分裂することが分かった。その内高エネルギーに発光を与えるオルソ励起子状態は四重極子許容遷移で偏光特性が顕著でないのに対し、低エネルギーの共鳴発光を与えるオルソ励起子状態は本来四重極子遷移禁制で、有限立体角で発光を検出する結果その禁制が緩和し、極めて弱く観測されることがわかった。これらの偏光特性は、2次元等方的圧縮応力によって立方晶の対称性が正方晶へ低下することによって説明できることを示した。この成果については現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験設備と整備・計測とデータ取得・解析ともに、おおむね順調に進んでいる。 本研究では、3He光学クライオスタットの構築と、解析に耐えうるデータを蓄積するため、実験環境の整備が重要である。初年度に、3He光学クライオスタットの構築、その試料空間の拡張、1K以下の超低温の実現はは完了した。2年度目には超低温環境の温度を校正するため、酸化ルテニウム温度計を導入して到達温度が0.8Kであることを示した。さらに、解析に耐えるデータ取得のために必要な、液体4He導入量の増加とその排気環境の整備を完了した。よって、X-BEC観測のための実験設備の整備は完了しており、現在そのシステムを用いた計測を順調に進めている。 一方並行して進めている試料評価においては、構造解析や光学スペクトル計測とその解析についても順調であり、同様な高密度状態の物性解明に研究が発展している。構造解析については、試料研磨と実験室規模のXRD装置を用いた計測と、SAGA-LSの放射光施設を用いた計測と解析を進めており、励起子をトラップするポテンシャル形成の起源である応力効果の解析を進めている。光学スペクトルの解析については、発光の偏光スペクトルの解析を進めており、2次元等方的圧縮応力が印加された領域の偏光特性については、実験結果を説明するモデルを提案し、実験結果を説明することに成功している。現在、異なるエピタキシャル成長モードの領域で得られる発光スペクトルとその偏光特性の計測と解析を進めている。その領域ではオルソ励起子状態は3つに分裂し、それぞれ異なる偏光特性が期待できる。さらにこれらの解析で用いているベイズ分光法は、複雑なスペクトルの解析において極めて有効で、ダイプII超格子系で実現できる高密度電子正孔凝縮相のスペクトル分解にも適用し、電子正孔液滴状態が安定化することを統計的確証をもって示すことに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
既に1K以下の超低温での計測のための実験設備の整備は完了しており、現在そのシステムを用いた計測を順調に進めている。さらに、測定に用いる亜酸化銅薄膜結晶の構造と、励起子状態の物性研究も順調に進めている。最終年度ではそれらの実績を元に、以下の方策で研究を進め、それら研究成果の論文投稿に努力する。 (1) 超低温での光学測定: 整備済みの3He光学クライオスタットを用いた実験を進め、1K以下の励起子高密度相の探索と物性研究に取り組む。実験を効率的に進めるために、研究代表者が指導する大学院生3名をこの実験に協力させる。 (2) 亜酸化銅薄膜結晶の構造: 基板との格子不整合由来の2次元的応力は、基板界面から離れるにつれて徐々に緩和していることが期待でき、その結果励起子をトラップするポテンシャルの空間形状が特徴づけられる。そのため界面層を研磨しながら、放射光等を用いて表面構造解析を進め、応力の厚さ方向の変化解明に取り組む。 (3) 高密度励起子状態の物性解明: 既に開発したベイズ分光法を発光スペクトル解析に適用し、励起子が従う統計分布をデータだけから推定するモデル選択を試みる。さらに、高密度電子正孔凝縮相の研究においては、その時系列ダイナミクスを解明する研究に取り組む。
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