研究課題/領域番号 |
16H04004
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
石井 賢司 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員(定常) (40343933)
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研究分担者 |
藤田 全基 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20303894)
筒井 健二 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 上席研究員(定常) (80291011)
水木 純一郎 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90354977)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 物性実験 / 量子ビーム / 強相関電子系 / 光物性 |
研究実績の概要 |
本課題では、技術発展が著しい放射光X線共鳴非弾性散乱法(RIXS)を用い、銅酸化物を対象として、動的電荷相関の観測から、強相関電子の運動状態を支配する電子間クーロン相互作用の効果、さらに、より低エネルギーに現れるスピン揺らぎ・格子振動と結合した電荷ダイナミクスを明らかにする。軟X線から硬X線にわたる複数の吸収端を適切に使い分けることによって、広範囲に渡るエネルギー・運動量空間での動的電荷相関を観測する。ホールドープと電子ドープの類似点、相違点に着目しながら、(1) モット絶縁体が電荷ドープにより金属化する過程、(2) 電荷ドープされたところで起こる電荷秩序、(3) 電荷ダイナミクスと他自由度との結合、に焦点をあてた研究を展開する。 本年度は、上記の(1)として、酸素K吸収端のRIXSでLa2-x(Ba,Sr)xCuO4の電荷励起の測定を行った。その結果、電荷移動ギャップよりも低エネルギー側にドープされたホールの運動に対応する電荷励起が観測され、その運動量依存性、ホール濃度依存性を調べることで、電荷ドープされたモット絶縁体における電荷ダイナミクスの特徴を明らかにすることができた。 一般に開放されているビームラインをそのまま利用する酸素K吸収端RIXSに対し、銅K吸収端RIXSについては本課題で高度化を行っていく。高エネルギー分解能化に向けて必要な光学素子やそれを制御するためのステージ等を購入し、次年度以降、ビームラインへ導入できる状況となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
La2-x(Ba,Sr)xCuO4での酸素K吸収端RIXS実験で観測された励起が、理論研究と組み合わせることで電荷励起と同定することができた。これは、銅酸化物の低エネルギー(1 eV以下)電荷励起を運動量依存性まで含めて観測することに初めて成功した結果であり、当初から期待していた通り、酸素K吸収端RIXSが電荷励起の観測方法として極めて有効であることを実証することができた。現在、この成果は論文にまとめて投稿中である。 銅K吸収端の高エネルギー分解能化のための準備も順調に進んでおり、平成29年度にテスト実験を行える状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
電荷秩序やスピン・格子振動励起は温度により特徴的な変化をすると考えられるので、概要の項に記した(2)、(3)を議論する上で、電荷励起の温度依存性の測定が重要になる。ホールドープ系のLa2-x(Ba,Sr)xCuO4については、その点に着目して酸素K吸収端RIXSの実験を行う。電荷とスピンの結合は強相関電子系としての特徴と言えるが、スピン励起の温度依存性の測定は中性子非弾性散乱でいくらか行われているものの、系統的な測定には至っていない。エネルギー分解能では劣るものの、大型単結晶を必要とせず、短時間でスピン励起が観測可能な銅L3吸収端RIXSを利用してホールドープ系のスピン励起の温度依存性の測定も目指す。 ドープされた電荷が主に酸素軌道を占有するホールドープ系に対し、電子ドープ系では銅軌道に電荷がドープされるので、電子ドープ系では銅の吸収端でのRIXSが電荷励起の観測には有効である。銅L3吸収端RIXSでは、電荷励起とスピン励起が同時に観測できる。ホールドープ系と同様に電荷とスピンの結合に注目して、温度依存性の測定を行う。電子ドープ系銅酸化物では、超伝導発現のためには結晶作成後の還元アニール処理が必要であることが知られており、このアニール処理がスピン・電荷励起にどのような影響を与えるかはまだ明らかにされておらず、その点にも注目する。 銅K吸収端RIXSについては、購入した光学素子、機器を用いてエネルギー分解能の評価実験を行い、実試料への測定へと順次進めていく。
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