研究課題
本研究では、新世代のX 線光源であるX 線自由電子レーザー:XFEL と物質を精密に制御出来る強力な外場であるパルス強磁場を組み合わせ、30-40 Tの超強磁場下において、高精度X線回折法とX 線発光分光をはじめとする強磁場下高次X 線分光法を実現し、強相関物質の多自由度相関を明らかにすることを目指している。本年度は、スタンフォードの自由電子レーザーLCLSで進めている銅酸化物高温超伝導体のCDW 研究において、発生磁場を34 Tまで向上させた改良型スプリットコイルを用い、超伝導面内でのCDWの異方性を確認した。さらには、ホール濃度を変化させたときの電子相図とCDWの存在領域の関係を決定する事に成功した。その結果、これまでCDWが観測されてなかった境界領域でも強磁場中では微弱なCDWが存在する事がわかった。また、CDWと上部臨界磁場の関係も明らかにした。これらの結果は、一部を学会ならびに国際会議で発表し、現在論文として取り纏めている。この研究と平行して、SACLAを用いたX 線散乱装置の開発を進め、共鳴散乱に対応する大型コイルと超高真空下の測定が可能な回折装置の設計と製作、実験室系における実証実験を行った。試料の4軸制御とゴニオ架台の4軸制御を組み合わせることで、単結晶測定に対応出来る強磁場回折装置を完成させた。また、コイルの冷却方法の改善を行い、これまでより3倍速いデータ取得を可能にした。この装置を用いた回折実験はH29年度から開始する。これらと平行して、実験対象としているグラファイトとスピンクロスオーバー錯体の磁場温度相図の測定をすすめ、回折実験における条件の絞り込みを行った。また、基礎物理実験への強磁場の応用について共同研究を推進し、学際研究への展開も行った。
2: おおむね順調に進展している
課題の1年目の遂行状況は良好である。回折実験については、装置の改良と銅酸化物高温超伝導体への応用が順調に進んでおり、内外から注目される結果が出ている。さらには、低温実験などを行うために、国内のSACLAにおける実験の準備も順調に進んでおり、X線回折系が1年目で完成し、H29年度前期から実際の回折実験が開始される予定である。実験対象の物質の予備実験も順調に進んでおり、発光分光などの実験条件の精査も進展している。以上の事から、本課題の進捗は良好であると判断する。
H29年度は、スタンフォードのLCLSと日本のSALCAを併用して強磁場実験を進めるが、自由電子レーザー実験は回折系に加えて、ビーム光学、検出器など多方面の技術支援が必要である。このため、H28年度から理化学研究所のチームとの共同研究を進めることで、実験を実施出来る体制を整えているが、この共同研究をさらに進めることが課題実現にとって重要な方策となる。また、低温環境については、熱評価などが終了したので、速やかに冷却試験を行い、後期から利用出来るようにする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Phys. Rev. Lett.
巻: 118 ページ: 071803-1-6
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J. Phys. Soc. Jpn.
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http://www.hfpm.imr.tohoku.ac.jp