研究課題/領域番号 |
16H04010
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 初果 東京大学, 物性研究所, 教授 (00334342)
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研究分担者 |
上田 顕 東京大学, 物性研究所, 助教 (20589585)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子性物質 / 電子ー水素のカップリング / 非線形伝導 / 圧力下伝導度 / 外場応答 |
研究実績の概要 |
従来、π電子が主役で電気伝導性や磁性を与える「π電子物性」の研究は、反/強誘電性やプロトン伝導などを発現させる「水素由来の物性」の研究と別個独立に行われてきた。そこで本研究では、純有機結晶を対象として、この「π電子物性」に「水素由来の物性」が連動した「π電子―水素が協奏する新奇物性」の開拓を目指している。平成28年度は、π電子―水素協奏系高品質有機単結晶の育成、π電子と水素の静的および動的相関の測定を行った。 具体的には、まず、(A)構成成分である有機分子の合成と高品質なπ電子―水素協奏系高品質有機単結晶κ-[H3(Cat-EDT-TTF)2]の育成を行った。つまり、構成分子であるカテコール縮環TTF(テトラチアフルバレン) H2Cat-EDT-TTFを十分な量を合成し、それを原料として、定電流電解法で、高品質な結晶育成の条件(温度、溶媒の種類と量、電解質および塩基の種類と量、結晶セルの形状、電気化学的成長のための印加電流値、電極の表面と形状、結晶成長インキュベータの選定)を絞り、放射光でのX線構造決定に最適な高品質な単結晶育成を行った。 次に、(B)放射光を用いて、各温度におけるπ電子―水素協奏系有機単結晶κ-H3(Cat-EDT-TTF)2(水素体)の水素結合プロトンの位置を含むX線結晶構造、およびバンド構造を調査し、高品質結晶の結晶・電子構造の温度変化を調べた。 さらに、(C)この高品質なπ電子―水素協奏系有機結晶κ-[H3(Cat-EDT-TTF)2]を用いて、外場として強電場下の電気伝導を測定して、外場によるスイッチング効果の可能性を調べたところ、室温より非線形伝導、180K以下で負の微分抵抗が観測され、モット絶縁相におけるスイッチング現象を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
π電子ー水素カップリング系純有機伝導体κ-H3(Cat-EDT-TTF)2の高品質結晶を育成し、放射光における結晶構造解析で、水素を含む結晶構造を調べ、それを用いた電子構造を計算し、さらに外場応答として、強電場下の伝導度を測定した。その結果、室温より非線形伝導を、そして180K以下で、負の微分抵抗を示すスイッチング現象を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
π電子ー水素カップリング系純有機伝導体κ-H3(Cat-EDT-TTF)2(水素体)の高品質結晶で、負の微分抵抗を持つ非線形伝導、つまりスイッチング現象を見出した。今後、このπ電子系を中心としたスイッチング現象が、プロトンのダイナミクスとどのように相関しているのかを調べるために、同型物質である重水素体κ-D3(Cat-EDT-TTF)2を作製し、プロトン―電子の相関性を調べる予定である。
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