研究課題
機能性有機結晶では、「π電子物性」研究と、「水素系物性」は独立に研究されてきた。本課題では、π電子と水素の両者が協奏した、超伝導、絶縁体ー金属などの相転移(スイッチング)、そしてその外場応答(電場、圧力)などの新奇物性・機能性などの開拓を目指している。具体的には、(1)π電子と水素が協奏する有機分子および高品質有機結晶の合成を行い、(2)結晶・電子構造解析により、π電子と水素の静的協奏関係を明らかにし、(3)直流・交流電気抵抗率、電場下非線形伝導、圧力下抵抗率の測定より、π電子と水素の協奏物性として、外場(電場、圧力)によるプロトンスイッチング、水素の量子揺らぎを利用した超伝導の発現を目指している。昨年度は、対象とするkappa-H3(Cat-EDT-TTF)2 (水素体)の電場応答を調べたところ、通常の有機ダイマーモット絶縁体同様、非線形伝導、および低温で微分負性抵抗が観測され、絶縁相から電場印加で高伝導相にスイッチングしていることが明らかとなった。そこで本年度は、kappa-D3(Cat-EDT-TTF)2 (重水素体)の電場応答を調べた。重水素体は、185Kで、重水素の無秩序-秩序化とカップルした電荷秩序相が出現する。TCO = 185 Kより低温の160Kでは、電場印加で電荷秩序が融解し、電場を切ると電荷秩序相に戻り、電場の上昇と下降プロセスでほとんどヒステリシスを示さない。しかし、電荷秩序温度に近い170 Kと165Kでは、電場上昇と下降時で大きなヒステリシスを与えた。これは、転移温度直下では、電場を切っても重水素が熱揺らぎを起こしているために電子系もダイマーモット半導体相へスイッチしたことが、非線形伝導度測定と電場下のラマン測定から示唆された。このように、π電子-水素カップリング系ならではの特性が、電場印加下の応答として観測されていることが大変興味深い。
1: 当初の計画以上に進展している
外場応答として、圧力応答ばかりでなく、電場応答に関しても、水素と電子のカップリング効果が表れていることを明らかにした。カップリング有機伝導体kappa-H3(Cat-EDT-TTF)2 (水素体)では、通常の有機ダイマーモット絶縁体同様、非線形伝導、および低温で微分負性抵抗が観測され、絶縁相から電場印加で高伝導相にスイッチングしていることが昨年度明らかとなった。一方、本年度は、重水素体kappa-D3(Cat-EDT-TTF)2の電場応答に取り組んだ。重水素体は、温度変化をすると、185Kで重水素の無秩序-秩序化とカップルした電荷秩序相が出現する。その温度より下では、電場印加により高伝導相へスイッチングし、電場を切ると再び電荷秩序絶縁相へと戻る。しかしながら、電荷秩序転移温度直下で電場をかけると、高伝導相へスイッチするが、電場を切ると元に戻らず、ダイマーモット半導体相という準安定相へ変化することが、非線形伝導および電場下のラマン測定から示された。これは、転移温度よりはるか下では、重水素の秩序化に伴い電荷秩序相へ戻るのに対し、転移温度直下では、重水素が熱揺らぎを起こしているために電子系もダイマーモット半導体相へスイッチしたと考えられる。このため、電場印加の上昇時と下降時には、電荷秩序相とダイマーモット相と、異なる状態からの電場印加による融解となる。そのため、170Kと165Kでは、電場応答にヒステリシス挙動を新たに観測した。このように、π電子-水素カップリング系では、π電子のみでは見られない、カップリング系ならではの特性が、電場印加という外場下での応答として観測されていることが大変興味深い。
水素ー電子カップリング系有機伝導体について、重水素体の電場応答で、カップリングならではの電場誘起準安定状態発現による電気抵抗のヒステリシスという大変興味深い応答を観測した。もう1つの外場応答として、圧力応答による水素ー電子カップリングの制御、および新物性、機能性発現を目指す。カップリング系有機伝導体の類縁体として、Seを導入したkappa-H3(Cat-EDT-ST)2について、圧力下の電気抵抗率の測定を行い、カップリング物性を議論する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 1件、 査読あり 20件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (46件) (うち国際学会 15件、 招待講演 13件) 備考 (1件)
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