研究課題/領域番号 |
16H04012
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 正行 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (90176363)
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研究分担者 |
清水 康弘 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (00415184)
小林 義明 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (60262846)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 多軌道系 / 核磁気共鳴法 / スピンクロスオーバー / ポーラロン / ネマティック揺らぎ / スピン液体 / キタエフモデル |
研究実績の概要 |
本研究では、遍歴と局在の狭間に現れる多軌道d電子系を対象に、主たる実験手段として核磁気共鳴(NMR)法を用いて、多軌道効果によって現れる新奇物性の発現機構の解明を目指した研究を進めている。本年度は、主に下記の成果を得た。1.軌道縮退を持つα-Sr2VO4の実験結果に対して、ミクロな軌道状態と電子状態に基づく解析を進めた。その結果、単一イオンモデルのみでは説明が難しいことが分かった。2.鉄系超伝導体NaFeAs、LiFeAs、Ba(Fe1-xCox)2As2の正方晶相で観測される電場勾配の異方性パラメーターの詳細な解析を行い、これがキュリーワイス型の温度変化を示すことを見出した。さらに、この振る舞いがネマティック帯磁率に起因することを明らかにした。3.擬一次元導体β-Li0.33V2O5は電荷秩序と軌道秩序を伴った金属絶縁体転移を起こす。金属相に対して、Liの秩序による2ax2bxcを持つ電荷不均化モデルを提案した。さらに、絶縁体相においても、2ax6bxc超格子構造と矛盾しない電荷秩序相の電荷秩序パターンのモデルを得ることに成功した。4.LaCoO3は、温度上昇とともに非磁性低スピン状態から磁気的なスピン状態にスピンクロスオーバーを示す典型物質である。これまでに得られているNMR実験データの解析を進め、このスピンクロスオーバーに伴うスピン状態と軌道状態の変化を考察した。さらに、SrをドープしたLa1-xSrxCoO3の低ドープ域で発現する磁気ポーラロンは、ドープされたSr周りの7量体が磁気的になるとするモデルと矛盾しないことを明らかにした。5.ハニカム格子反強磁性体α-RuCl3は、強いスピン軌道相互作用の結果、スピン液体を基底状態として持つキタエフモデルの候補物質と考えられている。温度磁場相図に関して、特に、反強磁性相と磁場誘起非磁性相の相境界を精度よく決めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展している。本年度の当初計画で計画した研究は、順調に進み、β-Li0.33V2O5の電荷秩序パターンに基づくNMR実験結果の解析は終了した。また、コバルト酸化物のスピンクロスオーバーに伴うNMRデータの異常についても解析が進んだ。さらに、鉄系超伝導体の正方晶相におけるネマティック揺らぎについても、3つの鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2、NaFeAs、LiFeAsで統一的に理解できることが明らかになった。これらの成果は、学術論文として発表することができた。一方、それら以外の研究課題についても、実験は順調に進み、興味ある結果が得られている。以上のように、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね研究は順調に進んでおり、今後も、当初の目的に沿って進める予定である。さらに、平成29年度に終了した挑戦的萌芽研究の研究課題である励起子絶縁体転移の研究も、本研究課題の一つとして平成30年度にとりあげ、これまでの研究成果を基に研究の展開をはかる計画である。また、新たな研究課題にも挑戦する予定である。
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