研究課題/領域番号 |
16H04014
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
関山 明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40294160)
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研究分担者 |
海老原 孝雄 静岡大学, 理学部, 准教授 (20273162)
田中 新 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (70253052)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 重い電子系 / 光電子分光 / 放射光 / 軌道対称性 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、実空間微細電子構造を解明するために主として偏光制御硬X線励起角度分解内殻光電子分光(LD-HAXPES)を行ってきた。前年度より引き続いて進めてきた圧力下で超伝導となるCeCu2Ge2に対してこの実験を行なったところ、Ce 4f軌道がGeサイトに向いたΣ-type Γ7対称性にあり、かつ4f電子の全角運動量Jz = ±3/2成分とJz = ±5/2成分がほぼ同程度からなることが判明した。さらにこれと同じThCr2Si2結晶構造を取るものの超伝導にはならず常磁性重い電子系物質として知られるCeRu2Si2についても同様な実験を行なったところ、やはりΣ-type Γ7対称性であるがJz = ±5/2成分がCeCu2Ge2と比べて有意に多いことが判明した。また、Jz = ±5/2成分が多く含まれるCe 4f軌道の対称性を決定するためには、LD-HAXPESにおいて光電子観測をより斜出射の配置で行う必要のあることが判明した。また、前年度に研究を進めたCeNi2Ge2, CeCu2Ge2および本物質で判明したJz成分の違いが必ずしもマクロ物性の系統性とは対応せず、それよりはいずれも重い電子系を形成しうるCe化合物の占有4f状態がΣ-type Γ7対称性にあるという共通した性質を有すると解釈する方が妥当と言える結果となった。なおLD-HAXPESについては実験環境を我々の手で構築できるSPring-8の理研ビームラインBL19LXUにおいてX線光学系整備から始まる装置の設定および実験を研究協力者とともに行った。この研究協力者には人材育成の観点から大阪大学博士後期課程大学院生2名も含まれ、研究推進に大きく寄与した。また、改めて角度分解内殻光電子線線二色性を定式化し、論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ThCr2Si2結晶構造をもつ重い電子系Ce化合物の実空間電子構造について、CeCu2Ge2, CeNi2Ge2, CeRu2Si2といった複数の違いに異なるマクロ物性を有する系に対して共通の性質を見いだしつつも一見系統性が考えられるパラメータに必ずしも系統性が見られないなど微視的電子物性の理解が本研究で大きく進みつつある。また、実空間局在的電子構造を光電子線二色性で決定可能ということを多くのCe化合物で実現しつつあること、および光電子線二色性の定式化に成功したことなどから当初の目的をほぼ果たしつつある、といえる。以上のことからおおむね順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究課題で確立しつつある手法を幅広く適用し強相関電子系の物理の発展に貢献するには国際的な成果として学術論文として発表していく必要がある。既に一定程度発表はしてきたもののそれをさらに加速させる。同時に、電子ホール対称性という観点からYb系でも、本課題採択前に対称性決定に成功したYbCu2Si2, YbRh2Si2以外にも適用していく必要がある。特に、CeNi2Ge2のカウンターパートとなるYbNi2Ge2については、すでに量子臨界からはかなり離れた価数揺動系にあることが他のマクロ測定から判明しつつあるが、この軌道対称性が多くのThCr2Si2結晶構造系で見られるΣ-type Γ7対称性なのか、それとも電荷分布が45度回転し遷移金属サイトを向いたΠ-type Γ7対称性にあるのかを解明することは量子臨界性と微視的な実効混成強度の関係から重要であることが浮かび上がってきた。最後の1年でこの問題に取り組む。
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備考 |
研究協力者の博士後期課程大学院生2名がJ-Physics:多極子伝導系の物理H30領域全体会議 最優秀ポスター賞受賞
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