研究実績の概要 |
本研究課題では、実空間微細電子構造を解明するために主として偏光制御硬X線励起角度分解内殻光電子分光による内殻光電子線二色性(LD-HAXPES)測定を行ってきたが、これと相補的な手法として高分解能価電子帯光電子分光を価数揺動系物質YbNi2Ge2に対して行ったところ、Yb 4f結晶場分裂に起因すると思われる構造を温度換算で300 K程度の領域に見出した。一方で、LD-HAXPESからこの物質は、これまで同じ結晶構造で見出されているCe, Yb化合物と定性的に異なりΠ-type Γ7軌道対称性を持つことが判明した。結晶場第一励起状態が300 Kにあり対称性が従来の物質と異なることは、YbNi2Ge2が価数揺動物質であることと整合性も良く、LD-HAXPESによってマクロ物性の起源が解明できたと言える。 立方対称のPr化合物についてもLD-HAXPESを系統的に行い、Γ1 (PrBe13), Γ3 (PrIr2Zn20), Γ5 (PrB6)対称性を有するとされる物質のPr 3d内殻光電子線二色性が確かに異なる結晶場基底状態を反映して異なるLDが観測されイオン模型による理論計算でよく再現される結果を得た。 また、非従来型超伝導がみられ量子臨界性を見せるβ-YbAlB4のLD-HAXPESも行い、結晶構造の異なるα-YbAlB4とのわずかなLDの差異を見出すとともに、大局的には両方とも結晶場基底状態はJz = ±5/2と結果としてJzが良い量子数を保っている状態になっていることが明らかになった。この知見は論文発表時にプレスリリースを行い、反響を得た。このプレスリリースをした研究も含めたLD-HAXPESについては実験環境を我々の手で構築できるSPring-8の理研ビームラインBL19LXUにおいてX線光学系整備から始まる装置の設定および実験を研究協力者とともに行った。
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