研究課題/領域番号 |
16H04015
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木須 孝幸 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (20391930)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光電子分光 / 分子性導体 / バンド構造 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
超高分解能光電子分光用汎用狭帯域レーザーの超高繰り返し化および出力増強のための開発を行った。繰り返し周波数逓倍器は本研究提案時よりさらに進めたアイデアを基に、よりコンパクトな設計の繰り返し周波数4倍の逓倍器を作成し、これを2台用意することで、320 MHz・1.28GHzの二種類の繰り返し周波数を用いることが可能となった。一方、出力増強については、非線形光学結晶でテストしたところ、厚みを増した効果があまり得られず、結晶入射前のレーザーの絞りを調節してみたものの、あまり改善されなかった。それよりも、研究計画における、パワー増強・逓倍器においては、光の透過率が問題となってきたため、先のように新しいアイデアに基づいた、逓倍器を開発することで、これらの欠点を克服し、3台目を新たに構築することによって、当初研究目的が達成されることとなった。
また、冷却機構回線のため導入した250Lのヘリウムベッセルにより、分子性導体の研究において十分な測定時間を確保することが可能となり、本装置における分子性導体研究が可能となった。
これらの改造が予定より早く進んだため、本年度より超伝導を発現する分子性導体k-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2において、角度分解光電子分光研究を遂行した。その結果、世界で初めてとなる、本物質の角度分解測定によるバンド分散の直接観測に成功した。分子性導体においては、角度分解測定に耐えうる正常表面を得るのが困難であり、同時に角度積分測定も行ったため、測定角度は数点にとどまったが、X線回折による結晶方位決定と併せてバンド計算と比較したところ、非常に良い一致を示した。このことは、角度分解光電子分光による波数分解電子状態の観測が超伝導を発現する分子性導体においても有効であることを示しており、今後の研究によってその超伝導発現機構に関する知見を得られるであろうことを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題1年目を終えたが、研究計画における1年目に設定した課題はおおむねクリアしている。光源改造にあたっては一部、計画通りに進まない部分があったが、他のアイデアによって同等レベルまで性能を引き上げることに成功しており、この点についての問題はないと思われる。また、当初計画における2年目に設定していた、超伝導を発現する分子性導体の実際の測定も、一部遂行して成功裏に終わっており、進行状況は順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の本研究計画に基づいて研究を推進する予定である。一方で、分子性導体はこれまでの申請者の経験によると、ARPES測定に耐える清浄試料表面を得るための劈開の成功確率が低く、試行錯誤の回数が非常に重要となる。成功確率が低いため、試行回数でカバーするが、運が悪い場合、年単位でかかる可能性がある。これに備えて、3年目に計画してある、別の試料も可能であれば並行して行っていく。
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