研究課題/領域番号 |
16H04017
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
堀田 貴嗣 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (00262163)
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研究分担者 |
服部 一匡 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (30456199)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 強相関f電子 / 多極子 / 非クラマース二重項 / 2チャンネル近藤効果 / 量子臨界点 / 超伝導 / 非フェルミ液体 |
研究実績の概要 |
本年度に購入した計算機を駆使して,7軌道アンダーソンモデルの数値繰り込み群計算を全ての希土類イオンに対して実行し,2チャンネル近藤効果の出現の全容を解明した。その過程で,2チャンネル近藤状態と局所一重項状態の競合に創出する新しい量子臨界点を発見した。 Pr系の四極子秩序に関する研究を進めた。Pr系1-2-20化合物の反強四極子秩序における電気磁気効果の解析を行い,電気磁気効果の異方性により,四極子秩序変数の同定が可能であることを示した。また,PrPb3における格子非整合Γ3四極子秩序について,Γ7軌道とΓ8軌道で構成される3軌道ハバード模型を乱雑位相近似によって解析し,四極子密度波状態という見方を確立した。フェルミ面上でΓ7軌道密度とΓ8軌道密度が多い領域が秩序ベクトルによって結びついて,感受率に大きな寄与をもたらすことを示した。これを多極子ネスティングと定義し,f2電子系のΓ3四極子密度波状態を理解する上で重要な見方となることを指摘した。 多バンド超伝導という観点でU化合物と共通点の多いBiS2系層状超伝導体の研究に取り組んだ。BiS2系超伝導体のレビュー論文を執筆すると共に,多軌道引力機構模型の理論を提案し,異方的s波超伝導の可能性について解析した。超伝導状態における非磁性不純物散乱を自己無撞着T行列近似で扱い,ノードがあるs波とノードがないd波に対する不純物効果を調べた。その結果,ノードがある場合でも,非磁性不純物散乱によって物理量の温度依存性がs波のように見えるので,実験の矛盾が解消されること,ノードがないs波とd波が非磁性不純物効果によって区別できることを見出した。 アクチノイド系の磁性と超伝導の研究にも着手した。今年度はまず,Pu化合物を念頭に局所感受率の計算を行い,磁気揺らぎの異方性について知見を得た。これをPu系の「高温」超伝導の微視的理解につなげていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,j-j結合描像に基づいて,立方晶非クラマース系をはじめとする強相関f電子系の磁性や超伝導を微視的観点から解明することを目標に掲げている。具体的な当初目標の一つとして,立方晶系のPrPb3の格子非整合四極子秩序の微視的理解をあげていたが,2018年度には,多極子ネスティングという新しい見方を出すことで,一定の結論を得ることができた。また,分担者を中心に,Pr1-2-20系のΓ3四極子物性の研究を進め,電気磁気効果の異方性による新しい実験を提案するなど,Pr系の四極子研究は順調に推移しているといえる。 近藤効果に関する研究では,予想を上回る成果が相次いでいる。2017年度には,従来知られていなかったNd系での2チャンネル近藤効果を発見し,論文発表をしたが,2018年度には,3チャンネル近藤効果と予想していた現象が,2チャンネル近藤状態と局所一重項状態の競合に創出する新しい量子臨界現象であることに気づいた。現在,論文にまとめている最中であり,2019年度の目玉の成果となることを期待している。 超伝導に関する研究では,U系そのものに対する研究はやや遅れているが,多バンド系の超伝導において,フェルミ面トポロジーとギャップノードの関係については順調に知見を深めており,着々と準備は進んでいると言える。さらに,残された問題として,Pu系の「高温」超伝導の機構解明があり,研究に着手したところである。2018年度は,局所感受率の計算から,Pu化合物の磁気揺らぎの異方性についての理解を深めた。
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今後の研究の推進方策 |
7軌道アンダーソンモデルにおいて局所f電子数n=1のCeイオンからn=13のYbイオンまで,全ての希土類イオンの場合に数値繰り込み群法の計算を実行し,2チャンネル近藤効果が現れる状況を解明した。成果を取りまとめ,2019年度中に論文として出版する。また,重希土類の場合に3チャンネル近藤効果と思われる現象を発見したが,2018年度の研究で,2チャンネル近藤状態と局所一重項状態の競合に創出する新しい量子臨界現象であることがわかった。これも論文にまとめ,2019年度の目玉の成果とする。 アクチノイド系の超伝導の微視的理論研究に着手する。一つは,最近,s波の可能性が指摘されているUBe13の超伝導であり,以前からの目論見どおり,四極子揺らぎによるノードレス超伝導の観点からの解明を目指す。もう一つは,Pu系の「高温」超伝導の謎の解明である。2002年にPuCoGa5が超伝導転移温度Tc=18.5Kという「高温」超伝導になることが発見された。同じ結晶構造のCe系超伝導体CeCoIn5が2001年に発見されていたが,こちらはTc=2K程度であった。これをj-j結合描像に基づいて考えると,全角運動量j=5/2の6状態に電子が1個のCe3+と5個のPu3+は,ちょうど電子・正孔対称性の関係にある。このことと,4f電子よりも5f電子の遍歴性が強いことを考慮すると,磁気揺らぎによるd波超伝導という可能性が考えられ,NMR実験もそれを支持した。しかし,その後,PuCoIn5が合成されたのだが,予想に反してTc=2K程度で,CeCoIn5とほぼ同じであり,上のシナリオは単純すぎると考えられる。GaとInの違いは,結晶場ポテンシャルやバンド構造に反映されるが,それによってなぜ10倍もTcが変わるのか,謎は深くなっている。この状況に,微視的観点から説明を与えることが,後半の研究の課題となる。
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