研究実績の概要 |
スピン正20面体はその特徴的な幾何学的性質に由来するフラストレート系として巨大磁気熱量効果をはじめ特異な物性の発現が期待されている。本研究は世界に先駆けて①結晶中の強磁性スピン正20面体の属性を解明すること、及び②その制御法を確立することを目的とし“クラスター磁性の”概念の創成を目指す研究である。 昨年度における研究はスピン正20面体多結晶の作製と単結晶構造解析による構造決定を目的とした。合金系としてAu-(Al,Ga,In,Si,Ge,Sn)-R(希土類)を選択し、以下の手順で試料作製を試みた。まず、所定の仕込み組成で高純度原料を秤量した後、アルゴン雰囲気下でアーク溶解を行った。その後各試料について構造均質化のための熱処理を施し単相化を図った。作製した試料について粉末X線解析測定及びSEM-EDS分析による評価を行ったところAu-(Al,Ga)-(La,Ce,Nd,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の合金においてスピン正20面体単相が得られることが明らかとなった。これらの試料は広い単相領域を有し、格子定数の変化が見られることから、価電子濃度とスピン間距離を連続的に変化させた試料の作製に成功したといえる。また、Au-Al-Gd多結晶試料については液体窒素中で粉砕を行うことで大きさ0.1mm程度の単結晶粒を取り出すことに成功し、単結晶構造解析を行った。4軸X線回折計とCCDカメラを用いて回折像を修得し、構造解析を行った結果、原子座標、占有率、原子変異パラメータを高精度で決定することに成功した。今後、作製した試料について磁化測定・比熱測定を行い、発現する磁性を明らかとすることで、巨視的磁性とクラスターの微視的構造の関係を解明する計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の目標はスピン正20面体多結晶の作製と単結晶構造解析による構造決定であったが、これまでにAu-(Al,Ga)-(La,Ce,Nd,Gd,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)という多種に渡るスピン正20面体多結晶試料の作製に成功し、うちAu-Al-Gd多結晶については構造決定にも成功している。作製した試料は幅広い組成域を持ち、磁性を変えうるパラメータである価電子濃度とスピン間距離を連続的に変化させることができることから、スピン正20面体の属性解明及び磁性の制御法の確立という研究目的の実現に十分に足る試料であるといえる。これらの進捗状況から研究は順調に進行していると考えている。
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