研究課題/領域番号 |
16H04019
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 博樹 日本大学, 文理学部, 教授 (80188044)
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研究分担者 |
山内 徹 東京大学, 物性研究所, 技術専門職員 (10422445)
大串 研也 東北大学, 理学研究科, 教授 (30455331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | はしご形鉄化合物 / 超伝導 / 高圧 / 圧力誘起超伝導 / 新規超伝導 / 鉄系超伝導 |
研究実績の概要 |
申請者らによる新しいタイプの擬1次元超伝導体、はしご型構造を持つ鉄化合物BaFe2S3の発見をきっかけとする研究であり、その物理的性質および超伝導発現条件を明らかにすること、関連する周辺物質を開発することを目的として研究を推進している。スピンラダー型鉄化合物の超伝導性が、銅酸化物と同様にモット絶縁体を金属化することで発現すること、また、1気圧では鉄に起因する様々な磁性を示し磁性と超伝導の関係が密接であること、などの結果から、鉄系超伝導や銅酸化物超伝導などの高温超伝導体の機構解明の手がかりが得られることが期待された。 BaFe2S3は1気圧で約120 Kのネール温度をもつ反強磁性モット絶縁体であり、約11GPaで金属絶縁体転移を示し、金属相で超伝導を示す。超伝導転移温度Tcは圧力に対しドーム型を示し、約17 K の最高Tcを示し17 GPa以上では超伝導を示さない。一方、BaFe2Se3は高圧下で超伝導の見つかったBaFe2S3のSをSeで置換した物質であり、鉄のはしご形構造をとるにもかかわらず、高圧下でも金属化せず、超伝導を示さない。平成28年度は、ダイヤモンドアンビルセルを用いて、BaFe2Se3に元素置換を行ったBa1-xCsxFe2Se3について電気抵抗測定を行い、高圧下の物性及び、圧力誘起超伝導の可能性を調べた。特に、BaをCsで置換することにより、中間組成でエネルギーギャップの抑制、磁気転移温度の減少が見られたことから、それに対応する組成を中心に高圧下での物性を調べた。 電気抵抗測定の結果からは、高圧下で金属化は見られたが、超伝導は観測されなかった。このことから、圧力誘起超伝導が観測された、BaFe2Se3とは母物質の基底状態が異なるかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BaFe2S3およびBaFe2Se3に元素置換を行った物質合成を行い、それらの物質について高圧下での電気抵抗測定を行うことで、電気的性質を調べている。おおむね計画通りに推進している。 BaFe2Se3について、キャリアドープを目的としてBaサイトに元素置換を行ったBa1-xCsxFe2Se3を作成した。高圧下で電気抵抗測定を行い、圧力誘起超伝導の可能性を調べた。特に、BaをCsで置換することにより、中間組成でエネルギーギャップの抑制、磁気転移温度の減少が見られたことから、それに対応する組成を中心に高圧下での物性を調べた。電気抵抗測定の結果からは、高圧下で金属化は見られたが、超伝導転移は観測されなかった。このことから、圧力誘起超伝導が観測されたBaFe2Se3とは母物質の基底状態が異なる可能性がある。この結果は、学術論文として公表した。 また、高圧下で超伝導を示したBaFe2S3に元素置換を行ったBa1-xCsxFe2S3を合成し、電気抵抗をはじめとする測定を高圧下で開始した。まだ予備的なデータを収集している段階であるが、金属絶縁体転移および超伝導転移が観測されている。本年度中に系統的に調べる予定である。加えて、質の高いBaFe2Se3を合成したところ、キュービックアンビルセルで金属絶縁体転移が観測された。ダイヤモンドアンビルセルを用いてさらに高い圧力まで電気抵抗測定を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
はしご形構造を持つ鉄化合物のBaFe2S3に元素置換を行った物質についての研究をさらに推進する。ホールドープ型Ba1-xCsxFe2S3について電気抵抗をはじめとする測定を高圧下で行う。これまでx=0.05の高圧電気抵抗測定の結果からは、BaFe2S3とほぼ同じ条件で超伝導が観測されている。今後、組成を変えた測定により系統的な物性を調べる予定である。また、電子ドープ型Ba (Fe1-x Mx)2S3 (M=Co,Cu)の測定も行う予定である。SをSeに置換したBaFe2Se3の物理的性質は常圧では詳しく調べられおり、圧力下での金属化、超伝導発現の可能性について調べる。 一方、すでに圧力誘起超伝導が報告されているBaFe2S3の研究過程で、Feの化学量論比と反強磁性転移温度TNおよびTcの間に相関があることが報告されている。BaFe2Se3についてもFeの化学量論比とTNの相関が示されており、Feの化学量論比を変化させた物質について高圧下で電気抵抗を測定することにより、金属-絶縁体転移などの性質を調べる予定である。また、これに一部元素置換を行った物質について測定を行う。 大串(分担者)は、主に物質合成と常圧下での評価(結晶構造、電気抵抗、磁化率、比熱、磁気構造など)を行う。山内(分担者)は、キュービックアンビルを用いた高圧下での電気抵抗測定、交流帯磁率測定を行う。DACよりも静水圧性がよく、応力歪み(一軸性圧力)が入りにくいため、電気抵抗測定は再現性がよく、質の高い測定を行うことができる。交流磁化率測定についても、DACよりディメンションが1桁程度大きな試料を使用できるので、質の高い測定が可能である。本研究ではDACを用いて圧力誘起超伝導を調べ、相補的にキュービックアンビルでの測定を行う。高橋(研究代表)はダイヤモンドアンビルセルを用いた電気抵抗測定、磁化測定を継続して行う。
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