研究課題/領域番号 |
16H04022
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
大井 修一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (10354292)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 渦糸 / メゾスコピック |
研究実績の概要 |
高温超伝導体中の量子渦糸状態は、大きな熱揺らぎと異方性のために、従来超伝導体と異なる独特の相状態や相転移(固体液体転移、グラス転移など)を持つことが知られている。このような渦糸状態が、微小単結晶中に閉じ込めた場合どのような変更を受けるか調べるため、平成28年度は、数μmからサブμm(現在の最小サイズは0.75μm角)まで微小化した良質な単結晶試料を集束イオンビーム装置を用いた両面加工プロセスにより準備し、300ガウス以下の低磁場域、4K-100Kの広い温度範囲において、固有ジョセフソン接合特性、特にc軸抵抗の磁場温度依存性の測定を通して、渦糸状態を探った。 結果として、一本一本の渦糸が侵入の様子を広範囲の温度磁場において明らかにすることができた。具体的には、最初の渦糸が侵入する磁場(第一渦糸侵入磁場)は、30-40Kの低温まで観察可能であった。理論式との比較の結果、この第一渦糸侵入磁場は、低温領域(60-70K以下)では表面バリアによって、高温領域では微小超伝導体の下部臨界磁場により、律速されることを見出した。 また、磁場や温度掃引に関して渦糸の出入りが不可逆化する明瞭な温度磁場線が存在することが分かった。この線はバルク単結晶の渦糸相図で知られている不可逆磁線より、デピニング線といわれる相転移線に近い温度磁場依存性を示す。この振舞いは渦糸数が1本の場合から観察されるため、渦糸侵入排出過程の不可逆性を用いる渦糸メモリを実現する上で重要であるとともに、2次相転移とされるデピニング転移の性質を知るうえでも興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、高温超伝導マグネット付き冷凍機冷却低温測定装置を導入し、所定の性能を達成できた。試料作製に関しては、0.75ミクロン角までの良好な微小固有ジョセフソン接合の作製に成功し、現状300ガウスまでの低磁場域においては、4Kから超伝導転移温度までの広い温度範囲で、c軸抵抗や臨界電流測定を実施できた。また、GaAs系2次元電子ガスを用いた微小ホール素子の作製に目途がたった他、微小超伝導体への単一渦糸侵入の際に誘起されたジョセフソン渦糸フロー状態のマイクロ波照射(20GHzまで)に対する応答を調べる環境が整い、現在実験が進行中である。 以上はおおむね予定通りの進捗である。
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今後の研究の推進方策 |
サブμmサイズへと微小化するにしたがい、固有ジョセフソン接合スタックが抵抗成分によりシャント(短絡)されるケースが起こることが分かってきた。現在、その原因を究明できていないが、集束イオンビーム以外の試料加工や、加工後の後処理を工夫することで、シャント抵抗成分が現れる理由を明らかにしたい。さらには、意図的にシャントするなどの制御が可能か調べる。 また、試料サイズが1μmを下回るようになると、接合のジョセフソン結合エネルギーが熱エネルギーの大きさと同等かそれ以下となる。このような臨界電流が小さい接合では、熱揺らぎにより発生する抵抗が無視できず、渦糸観測への影響が懸念される。より微小な試料の作成と測定を可能とするため、酸素中アニール処理や鉛置換、電流注入ドーピングなどの手法により過剰ドープ域の接合を準備し、どこまで微小化が可能か試みる。その上で、微小結晶中の渦糸状態についてより広範囲な温度磁場相図を明らかにする。
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