研究実績の概要 |
銅酸化物系高温超伝導体中の量子渦糸状態は、大きな熱揺らぎと異方性のために、従来超伝導体と異なる独特の相状態や相転移(固体液体転移、グラス転移など)を持つことが知られている。このような渦糸状態が、微小単結晶中に閉じ込めた場合どのような変更を受けるか調べるため、平成29年度は、試料の面内方向サイズ(数μm ~ サブμm)だけでなく、形状(正三角形、正方形、正五角形、正六角形や単一孔構造など)を制御した、良質微小単結晶試料を集束イオンビーム装置を用いた両面加工プロセスにより準備し、固有ジョセフソン接合特性、特にc軸抵抗の磁場温度依存性の測定を通して、渦糸状態を探った。高温超伝導マグネットシステムが冷凍機のメンテナンスにより稼働時間が限られたため、別途水冷銅マグネットを作製し、これまで300ガウス以下であった磁場範囲を2倍以上に拡張して実験にあたった。 結果として、様々な形状試料において、数μmまで微小化された試料では、単一渦糸の逐次侵入を観察でき、有限要素法を用いたシミュレーションと比較した結果、各々の形状に対応した特徴的な渦糸数において、幾何学的な2次元マッチングが起こることが分かった。例えば、正三角形試料での特徴的渦糸数は、いわゆる三角数(1,3,6,10、.. i(i+1)/2)であり、正方形では平方数、正六角形では独特の法則性が見出された。 また、単一孔を導入した微小試料においては、実効的な孔の面積に対応する磁気抵抗振動が高温側(デピニング温度~Tc)において観察され、SQUIDデバイスと類似の応答を示すことが分かった。さらに超伝導転移温度近傍では、この振動はLittle-Parks振動と酷似していた。単一ループ中に二つのジョセフソン接合をもつDC-SQUID構造でなくとも、より単純な単一孔微小固有接合を用いて、SQUID類似デバイスを作製できる可能性がある。
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