研究実績の概要 |
高温超伝導体中の量子渦糸状態は、大きな熱揺らぎと異方性のために、従来超伝導体と異なる独特の相状態や相転移(固体液体転移、グラス転移など)を持つことが知られている。このような渦糸状態が、微小単結晶中に閉じ込めた場合どのような変更を受けるか調べるため、昨年度から引き続き、試料の面内方向サイズ(数μm ~ サブμm)や形状(正三角形、正方形、正五角形、正六角形、円形や単一孔構造など)を制御した良質微小単結晶試料を、集束イオンビーム装置を用いた両面加工プロセスにより準備し、固有ジョセフソン接合特性の測定を通して、渦糸状態を探った。また、高温超伝導マグネットシステムの冷凍機にトラブルが発生していたがこれは解決した。また、Bi2212の異方性が非常に大きい不足ドープ試料での固有接合作製に成功し、比較的低磁場で渦糸系の相転移が観測可能となった。 実験と並行して、GL方程式を用いた有限要素法シミュレーションで様々形状での渦糸配置を調べ、形状に応じて無欠陥配置の現れ方に周期性があることが分かった。正三角形試料での特徴的渦糸数は、いわゆる三角数(1,3,6,10、.. i(i+1)/2)となり、正方形では平方数(i^2)、正六角形では中心付六角数を含む独特の周期性が見出された。実際、実験において、正三角形での渦糸結晶融解転移線の磁気振動の周期は三角数と見事に一致した。正方形では、平方数がマッチング配置であると思われる結果を得ているが、融解転移の磁気振動はブロードであり、形状マッチングが完全でないことを示唆する結果であった。さらに、正五角形および円形では、明瞭な融解転移が見える試料が完成しなかったが、正六角形では、理論的に予想される渦糸数のみならず、欠陥構造の場合にもマッチングを示し、隠れた周期性があることが明らかになった。
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