SeサイトにSドープしたFeSeにおける対形成機構がnematicityの影響を強く受けることを昨年度までに見出し、論文として発表した。nematic相、正方晶相それぞれにおける超伝導ギャップ構造をより詳しく調べるため、電子温度90mKに到達できる希釈冷凍機STMを用いて、20μeV程度の超高分解で超伝導ギャップスペクトルを調べた。その結果、nematic相にあるFeSeの超伝導ギャップは異方的ではあるがノードは無く、ギャップの最小値が0.1meV程度のフルギャップ超伝導であることが示唆された。この0.1meV程度のギャップ様構造はnematic臨界濃度近傍でも観測されるがギャップ内に有限の状態が観測された。これが、単なるギャップ異方性によるのか、本質的にギャップレス状態になっているのか、今後検討する必要がある。 FeSeにおいては、超伝導ギャップとFermiエネルギーの大きさが一桁程度しか違わないために、超伝導転移温度以上でpre-formed電子対による擬ギャップが期待されるが、実験を行ったところ、擬ギャップは無いことが分かった。これは、FeSeがマルチバンド超伝導体であることに起因することを議論し、論文として発表した。 Teドープ試料に関しては、トポロジカル表面状態を持つTeドープ量が60%近傍の試料に対して渦糸芯の超高分解能トンネル分光を行い、Majorana準粒子に起因すると考えられるゼロエネルギー束縛状態を見出した。また、多数の渦糸を調べたところ、ゼロエネルギー束縛状態を持たない渦糸の存在も判明し、その割合が磁場とともに増加することが分かった。これはMajorana準粒子間の相互作用に起因する可能性が高い。
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