研究課題/領域番号 |
16H04028
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (50361837)
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研究分担者 |
加藤 太治 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (60370136)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 多価イオン / ポピュレーショントラッピング |
研究実績の概要 |
平成28年度はまず、電子ビームイオントラップ(EBIT)を用いて発光線スペクトルの時間発展を計測するために、電子ビームを高速制御すると同時に時間依存スペクトルを測定可能なシステムの構築を行った。構築したシステムの試験の後、本研究課題の大きな目的の一つとなっているプロメチウム様イオンに適用して測定を行った。実験ではまず電子ビームエネルギーをプロメチウム様イオン生成の閾値より低い値に設定することで価数の一つ低いサマリウム様イオンを生成した後、瞬時に電子エネルギーを増加させることでプロメチウム様イオンを生成し、その後のスペクトルの時間発展を金やビスマスなどの元素について観測した。その結果、サマリウム様イオンからプロメチウム様イオンへの電離進行を観測することに成功したが、プロメチウム様イオンの基底状態と準安定状態の割合は一定であり、準安定状態へのポピュレーションの時間発展は観測することができなかった。これは、電離進行の速度に比べ、ポピュレーションの時間発展の速度が大きいということを示す重要な成果である。 また、遷移寿命観測を目的として、EBITから引き出したイオンをトラップするための超伝導磁石の設計を行った。強磁場を安価に発生するため、高温超伝導線材を用いて巻き線は自らで行う方法を採用した。巻き線を効率的に行うための巻線機の製作を行った。並行して、トラップ構築に必要なコイル用電源やトラップ真空槽、排気ポンプ系、高電圧電源、高電圧トランスの準備を行った。 一方核融合科学研究所では、これまで実績のある衝突輻射モデルプログラムに対し、時間発展の計算を行えるよう改良を進めた。 時間発展測定に加え、多価イオン原子時計への利用が期待されているイオンの発光線観測、同定を進めた。特にHo14+イオンの同定を確実に行うため、価数依存、タングステンまでの原子番号依存を系統的に調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず実験においては、時間発展計測スペクトルを測定するためのシステムを構築し、それを用いてプロメチウム様ビスマス・金イオンの極端紫外域発光スペクトルの時間発展計測を行うことに成功した。その結果、電離進行の速度に比べ、ポピュレーションの時間発展の速度が大きいということが実験的に初めて示された。このことに関しては、初年度において想定した以上の進捗であると言える。 遷移寿命測定のための超伝導磁石を用いたイオントラップの製作に関しては、巻線機などの製作を終えたものの、磁石の製作までには至っておらず、この点においては若干予定が遅れていると言える。 核融合科学研究所における時間発展衝突輻射モデルプログラムの構築はおおむね順調に進展している。 多価イオン原子時計への利用が期待されているイオンの発光線観測・同定においては、当初目的であったHo14+イオンを中心に、価数依存、原子番号依存を調べることで系統的な理解を得た。 これらの成果に関して学術誌論文2件、学会発表6件として公表するなど、全体的に見て初年度としてはおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
時間発展計測スペクトルの測定を継続して行う。平成28年度において、電離進行の速度に比べ、ポピュレーションの時間発展の速度が大きいということを実験的に示すことができたが、時間発展をとらえることは出来なかった。平成29年度はポピュレーションの時間発展をとらえるべく、実験のタイムシーケンスなどを工夫して実験を行う。また、プロメチウム様イオンを生成するのに、サマリウム様イオンからの電離ではなくネオジム様イオンからの再結合を用いることで、時間発展の様子がどのように変化するかを観測する。それら実験の結果を、新たに構築した時間発展衝突輻射モデルの計算結果と比較検討する。 また、平成28年度に用意した超伝導線材と巻線機を使用して超伝導磁石を製作し、イオントラップを構築する。 多価イオン原子時計への利用が期待されているイオンの発光線観測・同定においては、平成28年度で価数の同定を行うことはできたが、詳細な遷移の同定には至っていない。多数の4f不対電子を持つ複雑なイオンの発光スペクトルおよび原子構造を理解するため、より詳細な衝突輻射モデル計算を行い比較するなど、さらなる解析を進める。
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