平成30年度においては、これまで特にプロメシウム様イオンに注目してきたポピュレーショントラッピングのメカニズムの研究をサマリウム様イオンに拡張して行った。重元素のサマリウム様イオンは基底状態および第一励起状態の全角運動量がともに0であるため、第一励起状態ha 寿命が無限大と言ってもよいほどの強い準安定状態である。従って、プロメシウム様イオンの場合よりも強いポピュレーショントラッピングが起こることも予想されたが、実験結果と衝突輻射モデル計算の比較による解析では、準安定状態の占有密度は基底状態に比べ無視できる程度であり、ポピュレーショントラッピングが起きていないことが分かった。詳細な解析の結果、これは基底状態から準安定状態に励起する有効な経路が存在しないことが原因であることが分かった。プロメシウム様イオンの場合には、より高い励起状態からのカスケードによって占有密度が高い値を持つが、サマリウム様イオンの場合にはそのような経路が存在しないため、例え準位の放射による寿命が無限大であっても占有密度が高くならないことが分かった。 「多価イオン原子時計」の候補となっている4f開殻イオンの系統的の理解のため、昨年度のAg様、Cd様イオンに続いて、より複雑な構造を持つIn様、Sn様イオンの分光測定を行い、理論計算との比較により、得られた発光線の一部の同定に成功した。一方、製作した超伝導コイルについては、昨年度において40Kまでしか冷却できなかった原因を突き止め、それを改善することで目的とする20Kまで冷却することに成功した。また、当初の予定にはなかったが、長寿命遷移である電気八重極子放射の観測に世界で初めて成功し、その発光機構を詳細なポピュレーションキネティクス解析により明らかにした。 これらの成果をPhysical Review Lettersに投稿する他、国際会議HCI2018の招待講演として発表した。
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