研究課題/領域番号 |
16H04030
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
石川 潔 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (00212837)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / スピン偏極 |
研究実績の概要 |
さまざまな物質の核スピン偏極率を増大(超偏極)させ, 核磁気共鳴(NMR)計測を高感度化するため超偏極セパレータ(固体核スピン伝導体)を開発する。 今年度は、セシウム(Cs)原子による本研究で提案の超偏極法の原理検証を継続して行い、リチウム(Li)原子の分光容器の開発、Li原子の光ポンピング、銀(Ag)原子のポンピングのための紫外光源開発をめざした。 Cs金属については、ガラス容器中の不純物(おもに酸素とナトリウム)の混入によるCs原子のスピン緩和の可能性について調べた。 Li原子とAg原子はレーザー光によりスピン偏極が可能であるが、蒸気圧を上げるためには高温(Li:300-400 ℃, Ag:650-750 ℃)にする必要がある。 金属蒸気は、酸素などに触れ(酸化され)ないように、真空封入したガラス容器中で発生させる。 Cs金属に比べ蒸気の発生は困難であるが、Li金属とAg金属の化合物はイオンの移動度が大きく、核スピン緩和時間が長い。 それら金属化合物の結晶を、蒸気と容器外部を隔てるセパレータとし、移動度の大きなイオンを角運動量を運ぶキャリアとする。 スピン輸送中にスピン緩和しなければ、容器外に角運動量を運びだすことができる。 外部でスピン偏極を他の物質に移せば、多様な物質において、非平衡状態である超偏極スピン系による高感度NMR計測が実現する。 今年度の具体的な実績は下の「現在までの進捗状況」に示した。 また、一部の研究成果は論文や物理学会発表にて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Li蒸気は他のアルカリ金属に比べ蒸気圧が低いので、約10 mmの光路長で吸収を観測できるように原子密度を上げるため 300-400 ℃の高温にする必要がある。 Li金属は高温にするとガラスに溶け込みガラスを脆弱にし、これまでガラス容器で実験された例が多くない。 本年度は、Li原子を分光できるようなガラス容器を開発した。 将来、レーザー分光とNMR計測を併用するので、非磁性材料でありLi耐性のある酸化マグネシウム(MgO)セラミクスのルツボをガラス容器内に設置し、ルツボ内にLi金属を入れた。 この容器を使って分光実験をしてみると、350 ℃以下で十分な時間にわたり使用できることがわかった。 熱いLi蒸気を発生できるようになったので、緩衝ガスとしてヘリウムガス中のLi原子の拡散現象を観測した。 Ag原子を光ポンピングするため、紫外レーザー光源(波長338 nm)を準備しているところである。 本年度は、光共振器内の非線形光学結晶にて連続発振色素レーザーの第二高調波を発生させた。 基本波の波長を波長計で測定し、紫外光はホローカソード放電ランプ内のAg原子の光学遷移に共鳴させ、飽和吸収スペクトルを観測した。
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今後の研究の推進方策 |
緩衝ガス中の熱いLi蒸気を分光できるようになったので、緩衝ガスとの衝突現象を観測する。 例えば、核スピンのあるキセノンなど、ヘリウム以外の緩衝ガス中のLi原子の拡散係数を測定する。 緩衝ガスとの衝突はスピン緩和につながるだけでなく、逆に、スピン偏極を誘起することもある。 核スピン偏極を誘起する衝突の断面積など、気体中のスピン流に関わる物理量を測定する。 Ag原子については、原子の分光や光ポンピングができるように、電気ヒーターや光による加熱により石英ガラス容器中にAg蒸気を発生させる。 さらに、熱い蒸気中のAg原子の分光を試みる。 Li原子やAg原子のレーザー分光実験に加え、LiCl や AgI などの化合物の核磁気共鳴信号を観測し、レーザー分光とNMR計測の融合の条件を探る。
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