本年度はまず、多孔質膜を補強することで柱などの障害物を除去した灌流型微小流体デバイス「広域マイクロ灌流系」において、蛍光を用いた大腸菌集団競合過程の観察が十分行えるような培養条件の比較検討を行い、画像解析により、占有領域パターンの検出と、その統計的特徴の解析に成功した。特にフラクタル解析を実施し、前年度までに実施していた柱付きデバイスにおける計測結果よりもフラクタル次元が高くなる傾向があることを見出した。 さらに、柱付きデバイス、柱なしデバイスの双方において、菌体の配向秩序の解析を行った。具体的には、位相観察画像に対して構造テンソルの固有値計算を行うことで局所的な配向場を取得し、そこから秩序変数を計算したり、トポロジカル欠陥を検出したりすることができる。大腸菌競合過程の観察画像に対して本解析を実施したところ、トポロジカル欠陥が存在し、対生成や対消滅をしているだけでなく、トポロジカル欠陥が競合パターンの時空間ダイナミクスに重要な影響を与えていることが判明した。また、巻き数+1/2の欠陥と-1/2の欠陥では効果が異なっており、-1/2の欠陥は柱などの壁面と隣接することで、壁面形状が競合パターンに影響を及ぼす役割を担うこともわかった。 また、本研究課題で開発した「広域マイクロ灌流系」の性能の定量的評価も行った。具体的には、袋小路型の流路を構成して大腸菌を培養し、袋小路の奥まで一様に菌の成長分裂が起こることを定量的に確認するとともに、PDMSをベースとする標準的な微小流体デバイスと比較し、広域マイクロ灌流系が高密度菌集団の一様環境下での計測に適しているデバイスであることを実証した。また、送液切替により観察領域内の液の交換に要する時間や一様性も、共焦点顕微鏡を用いた計測によって評価した。以上の成果は論文として公開し、他の様々な研究用途に本デバイスが活用されるよう成果普及に努めた。
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