研究課題/領域番号 |
16H04035
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西森 拓 広島大学, 理学研究科, 教授 (50237749)
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研究分担者 |
粟津 暁紀 広島大学, 理学研究科, 准教授 (00448234)
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (40414875)
中田 聡 広島大学, 理学研究科, 教授 (50217741)
末松 信彦 明治大学, 総合数理学部, 専任准教授 (80542274)
泉 俊輔 広島大学, 理学研究科, 教授 (90203116)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 自己組織化 / アリ集団 / 分業 / 自己駆動系 / 化学走性 / 群知能 |
研究実績の概要 |
本研究は、個々が単純な情報処理しかできず、かつ、全体を統括するリーダーもいないアリ集団が、なぜコロニーを囲む状況に応じて複雑な協調行動や可変的役割分担を行い全体として高度な機能を持ちうるのかを、採餌に関する定量的実験と数理モデリングによって検証することを一つの目的としている。本研究のスタートより本年度に至るまで、RFIDチップやマーカーによる個体認証システムの改良を重ねてきた。並行して、生物以外の自己駆動粒子の集団が、いかなるメカニズムで、生物集団にも劣らない複雑な運動を行い、そこからどのような集団的機能を発揮しうるかの研究も行っている。本年度は次の進捗があった: 1.同一コロニー内のアリ集団内に採餌頻度に関する階層が存在し、これらの階層は一定期間以上持続する。 2..採餌頻度の順位付けは、短期間では大きく変化しないが、長期間では大きく変動する。このことは、従来広く信じられてきた反応閾値モデルの見直しを要請する。 上記1. および、本項2.の結果は昨年度に出ていたが、本年度はさらに実験を進め、社会行動データを増やし系統的に整理し論文として国際誌に投稿するに至った。 3.道しるべフェロモンを利用するアリのコロニー内に、一定割合でフェロモンに対する感知度が極端に低いアリを混入させることで、フェロモンに対する感知度が高いアリのみのコロニーに比べて、より状況に応じたフェロモン経路を構築し効率的な採餌がなされることを計算機モデルにより示した。これは確率的なゆらぎを利用する生き物の集団生存戦略の例であり、別記の国際誌に掲載された。 4.水にうかべた2本の紐状の自己駆動物体同士が、水表面で拡散する物質を介して同期する現象を実験的に発見し、これらの同期状況を系統的に調べ、別記の国際誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基本目標は、一定の複雑さを内包する要素からなる集団の運動--主としてアリの集団行動―を行動実験、データ解析、理論モデルの作成と解析、化学分析などの手法の組み合わせにより、定量的に考察し、個の運動や機能と集団としての運動や機能の中に非自明な関係を見いだし、その本質的機構を抽出・記述することにある。並行して、生きていないが自己駆動する粒子の群れが、いかにして生物集団の複雑な運動と機能を模倣し得るかについても探索している。 研究実績の概要の欄で記したように、我々は、極小RFIDチップを使ってアリの集団行動を個体認識をしながら、かつ長期的に自動計測するシステムの開発し、これらの自動計測システムから得たアリ社会の「ビッグデータ」をもとに、アリの分業の可塑性や可逆性を明らかにしつつある。また、並行して、目視によるデータ取得も行ってきた。これは、RFIDチップのセンサーによる読み取りに関して一部エラーが混じるためで、目視データと比較することで自動計測システムから得られたデータの有効性を確認するためである。本年度は、両者の結果を比較して、少なくとも定性的には互いに齟齬のないことが確認できた。 並行して、アリ以外の自己駆動物体の複雑な運動についても、実験と理論を組み合わせた研究がすすんでおり、本年度においても国際雑誌に複数本の論文が受理された。 以上より、当初の研究計画は予定通りの進捗状況といえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度まで、集団の運動--主としてアリの集団行動について、リーダーのいない自律的な分業の発生の機構などを、行動実験やデータ解析、数理モデリングを通じて調べており、今後も同様の方針で研究を継続していく。 また、それに加え、 1.アリを支配する複数の走性の競合に関する実験および模型研究を行う。例えば、帰巣時において化学情報の指し示す巣の方向と、視覚情報による巣の位置が矛盾している場合があることをこれまでに見いだしているが、アリは個および集団としてどのように判断を下し帰巣方向を決定するのか、暗視カメラなどを使い、これまでの実験をより拡張してその機構を探る。単純な生物の「状況判断」がどのようにして発生するのか、今年度までに一部得られた行動データをさらに収集し、同時に行動の変化と脳内物質の変化の計測を外部研究者との連携によって実行し、単純な生き物の判断のしくみに、マクロな面とミクロな面の両側面から迫っていく 2.本年度までに得た、確率的ゆらぎを利用するアリの集団採餌の数理モデルを拡張し、より一般的な枠組みで、群れのタスク分担の最適化と確率的ゆらぎの関係を明らかにする。
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