研究課題/領域番号 |
16H04039
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
市原 美恵 東京大学, 地震研究所, 准教授 (00376625)
|
研究分担者 |
亀田 正治 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70262243)
山中 晃徳 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50542198)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | レオロジー / マグマ / 噴火 / 流動 / 破壊 / 気泡 / 粘弾性 |
研究実績の概要 |
マグマの変形と破壊のメカニズムについて理解を深め,火山噴出物に見られる流動と破壊の痕跡やマグマ上昇時の振動現象に新たな解釈を与えることを目的とする.研究は,理論・実験・計算の3班で遂行した.理論班は,時間と歪速度に依存する粘弾性流体の構成方程式の検討を行った.これまで,マグマの流動に関して,微小変形振動試験と定常流動試験という異なる極限条件から得られた二つのモデルが臨機応変に用いられ,噴火過程のように大変形かつ非定常な流動破壊現象に適用できるモデルは存在していない.物理・工学分野における研究を参考にし,流動中に流体の内部構造が変化し緩和する効果とその構造が輸送される効果が,本質的に重要であることが分かった.そして,それらの分野で通常扱われる粘弾性流体に対して剛性率が何桁も大きいというマグマ特有の性質を考慮したモデルの原形を提案した.実験班は,火山噴出物の中に見られる伸長気泡構造が特定の流動と破壊の痕跡を残している可能性に着目し,その形成条件を探る研究を行った.時間とともに発泡し硬化するポリウレタンフォームをマグマ模擬材料として用い,レオメータによって大変形かつ非定常な変形挙動を定量化した.さらに,変形を加えた後に硬化した試料をX線CTで撮影し,内部構造の定量化を行った.そして,気泡の内部構造の変化と凍結を表すモデルを構築した.また,伸長気泡構造が急減圧によって形成される可能性を検討するため,火山噴火模擬実験装置を用いた予備実験を行った.しかし,期待した変形は見られず,実験方法について再検討の課題が残された.計算班は,発泡試料のCT画像を読み込み,急減圧によって内部に生じる応力分布を計算するプログラム,および,粘弾性流体中の亀裂進展を計算するためのプログラムを開発した.理論・実験・計算の各成果は,国内外の学会や学生の修士・卒業論文として発表し,投稿論文の準備を開始した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画では,(1)マグマの挙動を表す構成方程式を構築する理論研究,(2)マグマを模擬する物質の変形・破壊実験の装置開発,(3)マグマの破壊を扱う数値計算手法の開発を行う予定であった.研究業績の概要に示した通り,(1)と(3)は順調に進められている.一方,(2)は,その基礎段階として行ったレオメータを用いた粘弾性計測実験から,発泡・流動・硬化する過程における見かけ粘性率の時間発展や,変形気泡の形成と凍結について,火山学的に重要な発見があり,それを追求する研究に注力した.また,当初予定していた急減圧による変形・破壊では,火山噴出物に見られるような構造を再現することができなかったことから,装置開発は一時中断した.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き,マグマの挙動を表す構成方程式を構築する理論研究,変形に伴う内部構造や変形特性の変化を調べるためのマグマ模擬物質変形実験,マグマの破壊を扱う数値計算の手法開発と実施を行う.理論班は,構成方程式の検討をさらに進める.構成方程式の中で,流動中に流体の内部構造が変化し緩和する効果とその構造が輸送される効果が,本質的に重要であることは,研究実績の概要に述べた.その中で,後者の効果には,いくつか異なる表現があり,応力の歪速度依存性が歪速度の大きな領域で異なってくる.この効果の適切な定式化を行い,構成方程式を改良する.さらに,新しい構成方程式を用いて,流体の流動から破壊へのプロセスにおける脆性度の評価を行う.実験班は,マグマ模擬物質として用いるポリウレタンフォームの変形実験について,さらに条件を追加して実験を行う.また,昨年度,期待した結果の得られなかった急減圧実験については.その原因を明らかにすること自体が,マグマの流動から破壊へのプロセスを理解する上で重要であると考えている.今後は,急減圧ではなく,圧縮変形を加え,試料の応答を調べる.計算班は,平成28年度に開発したフェーズフィールド法と有限要素法を組み合わせた計算手法を用いて,発泡粘弾性流体内亀裂進展過程の3次元数値解析を行う.すでに,粘性が大きく固体に近い挙動をする条件下で,急激な減圧によって生じる発泡試料内部の応力分布を計算し,計算から予測される亀裂の進展可能性と,実験で確認された破壊の発生場所がよく一致することが示されている.今後は,より粘性の低い条件下で流動の影響を強めた計算を実施し,破壊進展の有無の分岐を捉えることを目指す.
|