オリビンに対して、高温高圧実験で得られている温度・圧力・周波数・結晶サイズに依存するFaul and Jackson (2005)の式を用い、得られた3次元温度構造をS波減衰構造に変換した。得られた減衰構造の計算値とトモグラフィによる観測値との差から、温度構造以外の物質に起因する減衰異常を3地域で抽出し、物質異常とその地域性の原因を解明した。また、フィリピン海・太平洋の両プレートが沈み込んでいる関東地方の低地殻熱流量から、数値シミュレーション結果とトモグラフィ・微小地震の分布を比較し、3次元的な温度場と地震学的微細構造について議論した。 さらに、プレート上面付近において、地震学的に得られたVp/Vs、S波減衰と数値シミュレーションによって得られた水の存在量・移動経路を比較した。また、東北地方下のスラブにほぼ平行に傾斜したマントルウェッジ内の低速度領域と、本研究で得られた流れの方向との一致度、水・メルトの3次元分布との関係を定量的に明らかにした。関東地方、西南日本においても同様の解析を行い、地域性の差異を検討した。 また、中部日本下においては、最上部マントルで顕著な高減衰異常が認められる一方で、富士山と浅間山の間の火山の空白域下ではそのような高減衰域が存在しないことが明らかになった。高減衰域は部分融解域と解釈できることから,地表の火山分布は地下深部でのメルト分布域に規定されていることが強く示唆される。さらに、九州下におけるスラブ内地震の深さの下限やその発生位置は、プレート年代から期待される含水鉱物の分布域とよい対応を示すことが明らかになった。さらに、P波とS波の振幅比から東北地方の火山下の低周波地震の発震機構解を決定し、主軸の方向と広域応力場との関係を考察した。
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