研究課題/領域番号 |
16H04045
|
研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
尾鼻 浩一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地震津波海域観測研究開発センター, 主任研究員 (10359200)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 海洋プレート / 地殻・マントル構造 / アウターライズ |
研究実績の概要 |
本研究では海溝軸からアウターライズ領域で得られた地震観測データを用いて、海洋地殻・マントルの地震学的構造を解析し、沈み込み帯へのインプットである海洋プレートに水がどのようにとりこまれ、沈み込み帯深部へと輸送されていくのかを明らかにすることを目指している。H28年度は、2011年から2014年にかけて宮城沖の日本海溝海溝軸周辺および海溝海側斜面で繰り返し実施された海底地震計による地震観測データに関して、解析の基礎となる地震カタログの作成を、外部の検測作業支援等を活用して実施した。その結果,既存の検測データと合わせて約16000個の地震について検測を終えることができた。さらに、得られたデータをもとに、走時トモグラフィを行い、宮城沖日本海溝の海側斜面において、太平洋プレートの最上部マントルのP波速度が海溝軸に向けて低下している様子が示された。また得られたデータについては、データ公開に向けた準備を開始した。 短波長構造不均質に着目した散乱・減衰構造解析では、散乱減衰と内部減衰を分離して推定する既存の手法を、ベイズ推論の枠組みで一般化し、より正確な構造推定を可能とする新しい手法を構築した。この手法を海底地震計による観測データの一部へ適用した結果、東北沖地震後に発生した正断層型の大地震(M7.6)などの震源域付近やプチスポットと呼ばれる火山活動域に対応した構造不均質が存在することがわかった。 浅部構造の把握を目的とした干渉法解析では、日本海溝沖に設置されたハイドロフォンの連続記録(周波数帯域0.5-2.0 Hz)に対して地震波干渉法を適用し、観測点間を伝わる表面波を抽出することができた。このデータから群速度を測定し、トモグラフィ解析を行うことで、日本海溝沖の海底堆積物の水平構造を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたイベントについて、検測作業を終了し、解析に使用するデータを整備することができた。また、これらのデータ使用したトモグラフィ解析を行い、検測作業と並行して進めていた予備的な解析結果も含め、学会等で成果発表を行なっている。さらに、データ公開に向けた作業についても着手している。また、散乱・減衰構造解析では、波動伝播シミュレーションに基づいて散乱減衰や非弾性減衰が変化する媒質での人工データを作成し、そのデータを用いた検証に基づいて、散乱・非弾性減衰の水平変化を推定する手法を構築した。またその手法を一部の観測データに適用し、実データでも安定した解析が行えることを確認し、得られた構造の解釈も進めることができた。表面波解析においては、抽出した表面波が海底堆積物のS波速度構造を反映していることがわかり、群速度を測定してトモグラフィを行なった結果、10 km x 10 kmという細かい分解能でイメージングを行うことができ、海底堆積物内でも水平方向に速度が変化していることがわかった。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の進捗を踏まえ、今後は以下のように各解析をすすめる計画である。(1)トモグラフィ解析:昨年度実施した検測作業を通じてまとめられたカタログデータを用いて、3次元地震波速度構造トモグラフィを行い,比較的大きなスケールの構造不均質を明らかにするとともに,P波速度(Vp),S波速度(Vs)の空間分布とVp/Vs比から,含水化をはじめとする海洋プレートのアウターライズでの変質過程の評価を行う。なお、必要に応じて追加の検測作業などを実施する。(2)散乱・減衰構造解析:昨年度に構築した手法を適用し、より多くのデータを用いて散乱及び減衰構造の解析を実施し、地下の短波長不均質構造の分布を明らかにする。(3)干渉法解析:昨年度行なった解析手法に関する検討結果に基づいて、堆積層を主とした速度構造の空間不均質を明らかにする。以上に加え、干渉法で得られる浅部構造を踏まえた上で、より深部の異方性解析に着手する。これは、これまでの解析の結果、構造の不均質性を理解する上で異方性の影響を評価することが重要であるということが示唆されているためである。また、データ公開に向けた作業も並行して行う。
|