研究課題/領域番号 |
16H04053
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
山田 広幸 琉球大学, 理学部, 准教授 (30421879)
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研究分担者 |
和田 章義 気象庁気象研究所, 台風研究部, 主任研究官 (20354475)
久保田 尚之 北海道大学, 理学研究院, 特任准教授 (40359211)
嶋田 宇大 気象庁気象研究所, 台風研究部, 研究官 (60750651)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 台風 / ドップラーレーダー / 数値シミュレーション / アジアモンスーン |
研究実績の概要 |
本研究は、南西諸島およびフィリピンのドップラーレーダーを用いて、台風の気流構造と中心気圧を推定し、構造と強度の関係を明らかにすることを目指す。当年度に沖縄・石垣レーダーの観測範囲を通過した3つの台風と1つの熱帯低気圧について強度推定を準リアルタイムで行い、当年度の台風については概ね問題なく自動で処理できることを確認した。また、2017年6月に沖縄本島を熱帯低気圧が通過した際にラジオゾンデ観測を実施し、レーダーによる風の推定と整合したデータを得ることができた。 これまで推定を行った台風事例を用いて、台風強度と壁雲の傾斜角との統計的な関係の調査を行った。その結果、強度の増加と壁雲の傾斜角には相関があり、強い台風ほど壁雲が直立に近づくことがわかった。また、石垣レーダーの観測範囲で6時間に風速が30m/sも増加する急速な発達を示した2015年台風第15号の事例について、推定した風の3次元構造から、急発達に関わる物理過程(壁雲の置き換わり、下層インフローの増加と回転速度の増大)を明らかにし、論文が米国気象学会の雑誌に掲載された。 フィリピンの台風事例を調査するため、琉球大学とフィリピン大気地球物理天文局(PAGASA)との間でレーダーデータを用いた共同研究に関する実施取極(IA)を締結した。2017年4月にPAGASAで行われたセミナーに代表・分担研究者全員で参加し、現状の課題や今後の方針について意見を交わした。このデータを用いて破壊的な被害をもたらした2013年台風第30号の強度解析を行い、高度4kmにて101m/sの風が吹いていたことを明らかにした。この論文は米国気象学会の雑誌に掲載された。さらに、この台風についての大気海洋結合モデルを用いたシミュレーションを行い、雑誌を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度以降の計画として当初予定していた「発達する台風の構造と強度の物理的な関係の解明」について、事例研究と統計調査によって関係性をある程度明らかにできたと考えている。また、同じく当初予定の「甚大な災害に結びつく、猛烈に発達した台風の構造の調査」については、フィリピンで大きな被害をもたらした2013年台風30号(ハイエン)の強度と構造の解析を行い論文として掲載されている。研究開始から進めている強度推定のアルゴリズムについてはほぼ完成の状態に達し、台風の強度推定については概ね自動で処理できる状態になった。課題として、猛烈な勢力の台風におけるドップラー速度の品質の問題が残るが、これらは偏波レーダーの偏波パラメータなどを活用する新たな試みを検討する必要がある。フィリピンの気象レーダーのデータの利用については、フィリピン大気地球物理天文局(PAGASA)との共同研究に関する実施取極が予定より早く締結できたことにより、予定より早く研究を進めることができている。以上のことから、当初の計画計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
ドップラー速度の品質管理の課題については、二重偏波レーダーの偏波パラメータなどを活用することを検討する。これまで、沖縄本島周辺の台風事例については気象庁沖縄レーダーのデータを主に使用してきたが、情報通信研究機構Cバンド偏波レーダー(COBRA)の過去のデータの活用を検討する。すでに連携研究者より、2002年の運用開始以降の台風通過期間についてデータを提供してもらっており、これを用いた調査を行う。 新たな事例の蓄積のため、次年度に南西諸島を通過する台風についても強度推定を実施し、沖縄本島に接近する場合はラジオゾンデ観測を行い、強度推定の検証に使用する。 大気海洋結合モデルを用いた台風のシミュレーションについては引き続き行う。 フィリピンではレーダーデータの収集を行うとともに、地上観測データの収集も行う。また、現地のレーダーの生データの処理方法について、強度推定により適切なデータが提供できるよう、平滑化などのオプションを変更することをPAGASA側に働きかける。 これまでの研究成果を国内・海外の研究会議で積極的に発表するとともに、論文としてまとめる。2018年年度後半に沖縄で開催される予定の「東アジアの台風と雲システムに関する国際会議」においても本研究課題の成果を発表するとともに、東アジア各国の台風研究者と意見交換を行う。さらに、フィリピン-南西諸島域においてレーダーと航空機を用いた特別集中観測の計画を立案し、実現に向けて国内外の研究者と連携を図る。
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