研究課題/領域番号 |
16H04054
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
齊藤 和雄 東京大学, 大気海洋研究所, 客員教授 (70391224)
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研究分担者 |
川畑 拓矢 気象庁気象研究所, 予報研究部, 主任研究官 (80354447)
福井 真 東北大学, 理学研究科, 学術研究員 (30756557)
伊藤 耕介 琉球大学, 理学部, 准教授 (10634123)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アンサンブル予報 / データ同化 / 摂動手法 / 豪雨 / 再解析 / 非静力学モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、データ同化の解析精度やアンサンブル予報の精度を向上させるためアンサンブル摂動手法について調査を行う。平成30年度は、アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)などで広く用いられているアンサンブル変換法の問題点の調査について、雲解像非静力学数値予報モデル(JMA-NHM)を用いた場合について調べるとともに、アンサンブル変換行列の特性について理論的な考察を継続するとともに共分散膨張の特性を調べ論文投稿した。またLETKFにおいて、降水が予測されていない点に大気場と相関を持つ反射強度のアンサンブル摂動を与えて同化することにより、全アンサンブルメンバーで降水が予測されていない点でも反射強度の同化に伴って大気場が修正されて降水予報が改善し得ることを示し、論文にまとめた。さらに非線形予報モデルを繰り返し計算するアンサンブル変分同化法(En4DVarと4DEnVar)について、モデルが非線形でアンサンブル摂動の大きさが適切である場合に4DEnVarがEn4DVarより有望であることや、局所化半径の小さい4DEnVarではEn4DVarに比べて最小値探索が困難であるという結果を得た。 NHM-PFのリサンプリング時の摂動について、気候学的摂動を付加する手法を開発した。この摂動は、夏季の不安定性降水が発生した事例についてシミュレーションを行い、様々な時刻の間で差分をとって作成したものである。これを付加することでアンサンブルスプレッドが維持され、有効に働くことを確認した。 アンサンブルに基づく新たな感度解析手法を、従来手法と比較した結果、期待される通り理想的な状況下で両者が整合的になることを確認した。 従来型観測のみをNHM-LETKFを用いて同化する長期領域再解析システムの構築について論文にまとめ発表した。また、領域再解析の豪雨や台風の事例に対する再現性能について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主眼であるアンサンブル変換の問題点に関する具体的な調査が進展し、非静力学領域数値予報モデルでの調査やアンサンブル変換行列の性質についての理論的な考察が行えた。またアンサンブルカルマンフィルタを用いたり実験やアンサンブル予報に基づく感度解析、非静力学数値予報モデルに基づく粒子フィルタの開発と数値実験、豪雨事例に関する高解像度アンサンブル予報の実験も進捗している。研究遂行にあたって、研究参加者による研究会を、豪雨災害が発生した北海道十勝地方(帯広市)と九州北部(福岡市)の公共施設で開催し、理化学研究所や海洋研究開発機構、東京大学大気海洋研究所などから科研費研究参加者以外の参加もあった。 査読付き国際誌等に多数論文の解説を発表するとともに、招待講演を含む多数の国内外での学会発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
①LETKFで用いるアンサンブル変換における変換行列非対角成分の問題点について整理し、雲解像モデルを含む非静力学モデルのアンサンブル予報やアンサンブルデータ同化への影響を調べ、その成果をとりまとめる。 ②粒子フィルタ等他のアンサンブル同化法における初期値摂動手法の調査を行う。NHM-PFのリサンプリング時の摂動について、観測誤差の動的推定を行うことによりフィルターの安定を図り、これによって気候学的摂動の付加を取りやめることを検討する。成果についてとりまとめる。 ③アンサンブル摂動に基づく感度解析手法の適用により得られた成果を国内外の学会発表や論文発表にまとめる。 ④従来型観測のみを用いた領域再解析の観点から最適なアンサンブル摂動を与える手法を検討した成果をとりまとめる。 ⑤2018年7月西日本豪雨の事例で、まず解像度5kmで100メンバーのアンサンブル予報実験を行い、その結果から豪雨が発生しそうな地域を特定し、その地域をネスティングして解像度500mでダウンスケールし、高解像度によって確率予報の予報精度が向上するか調べる。
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