研究課題
本研究は、内部磁気圏衛星あらせ(ERG)に搭載したプラズマ波動・電場観測器で、地球内部磁気圏における(1)プラズマ波動-粒子相互作用を的確にその場(in situ)観測する手段を確立し、(2)磁気圏内のグローバルな「物質と場」のエネルギー収支と伝搬を定量評価するための解析手段を確立することを目的としている。あらせ衛星は平成28年12月に打ち上げられ、平成29年3月末より定常観測を開始したことから、当該年度は打ち上げ直後の、PWE装置の健全性確認と、各種運用モードの動作確認と運用フローの確立に注力し、当初予定していた衛星軌道上での観測器の強度・位相較正は、翌年度に繰り越して実施した。主な研究実績は以下のとおりである。(A) 電磁界センサの絶対強度・位相較正のための地上実験および評価PWEデータの科学利用には、電界・磁界とも衛星打ち上げ後に実測データによる絶対較正の確立が必須で、特にアンテナインピーダンス・実効長がプラズマ環境・測定周波数の関数となる電界センサの較正は不可欠である。そこで、軌道上で短時間で周波数特性データを取得できる、ソフトウェア較正機能をPWE機上処理ソフトウェアに実装し、その動作試験と取得データから較正用パラメータが正しく取得できることを確認した。(B)プラズマ波動観測データの評価・解析のためのデータパイプラインシステムの確立PWEは、データ容量が比較的小さいスペクトルデータ等を、常時観測データとして先に地上伝送し、科学的に重要なイベント判別に利用する。一方、生の電磁界波形データは生成レートが過大なため、機上のデータレコーダに蓄積後、イベント判別で重要と判断したデータのみを地上伝送する。観測成果の極大化のために、常時データを迅速にチェックし、重要イベントに関わる波形データを選別・地上伝送する解析・運用支援体制を整備した。
2: おおむね順調に進展している
研究概要で述べたとおり、あらせ衛星の打ち上げ、定常運用開始が年度後半にずれ込んだために、実観測データを用いた評価・解析は次年度に繰り延べとなったが、打ち上げ準備期間に、必要十分なPWE解析・運用支援体制と取得データの較正に不可欠な機器搭載機能の確認と事前データを計画通り取得できており、打上げから定常運用にかかる期間に余裕を持って機器機能チェックと運用を実現できた。加えて、査読付き論文2件、招待講演4件を含む30件超の学会での成果発表を行い、初年度としては十分な成果を得たと考える。
あらせ衛星が定常運用に移行したことを受けて、以下の項目について重点的に研究する。(A) 電磁界センサの絶対強度・位相較正:衛星軌道上で取得したプラズマ波動観測データを用いて、電磁界センサの絶対強度・位相較正を実施する。(B) スペクトルマトリクスを用いた波動の伝搬パラメータ解析システムの整備:波動の伝搬ベクトルや群速度等の算出には、電磁界信号の自己および相互相関を表すスペクトルマトリクスが用いられる。あらせ衛星は、機上生成するスペクトルマトリクスと、バーストデータから地上で生成するスペクトルマトリクスの2つが利用できるが、両データから波動の伝搬パラメータを導出して比較・評価を行い、精密解析を可能とするシステムを整備する。(C) 内部磁気圏内におけるChorus の特性解析:放射線帯電子の生成や極域の脈動オーロラと関わりが深いChorus波動を重点的に観測し、地上観測網とも連携して、Chorusの励起・伝搬過程の特徴を明らかにする。(D) DC 電場・低周波波動の研究:あらせPWEのDCおよび低周波電場を観測するEFDによる観測データを較正し、磁気嵐に伴うDC電場の変動や、低周波波動の波形・スペクトル解析を実施し、内部磁気圏内のグローバルな電場構造を明らかにする。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (31件) (うち国際学会 5件、 招待講演 4件)
Radio Science
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