研究課題
本研究は、内部磁気圏衛星あらせ(ERG)に搭載したプラズマ波動・電場観測器(PWE)で、地球内部磁気圏における(1)プラズマ波動-粒子相互作用を的確にその場(in situ)観測する手段を確立し、(2)磁気圏内のグローバルな「物質と場」のエネルギー収支と伝搬を定量評価するための解析手段を確立することを目的としている。平成29年3月より、あらせ衛星が定常運用に移行したことを受けて、今年度は以下の項目について重点的に研究を実施した。(A) 電磁界センサの絶対強度・位相較正:衛星軌道上で取得したプラズマ波動観測データを用いて、電磁界センサの絶対強度・位相較正を行い、絶対強度換算後の電・磁界強度および位相が、科学解析できるクオリティのデータとして取得できていることを実証した。(B) スペクトルマトリクスを用いた波動の伝搬パラメータ解析:波動の伝搬ベクトルや群速度等の算出には、電磁界信号の自己および相互相関を表すスペクトルマトリクスが用いられる。あらせ衛星は、機上生成するスペクトルマトリクスと、バーストデータから地上で生成するスペクトルマトリクスの2つが利用できるが、両データ共にChorusをはじめVLF帯のプラズマ波の伝搬解析に利用できることを実証した。(C) 内部磁気圏内におけるChorus の特性解析:放射線帯電子の生成や極域の脈動オーロラと関わりが深いChorus波動を重点的に観測し、地上観測網とも連携して、Chorusの励起・伝搬過程について解析を行った。(D) DC 電場・低周波波動の研究:DCおよび低周波電場観測データを較正し、DC電場の変動や、低周波波動の波形・スペクトル解析が可能な物理量変換データを整備した。
2: おおむね順調に進展している
あらせ衛星で取得した電磁界波動・スペクトルデータの物理量換算処理システムが確立し、PWEのミッションであるプラズマ波動の伝搬パラメータ解析や、精細な波形データの取得が順調に行われている。定常観測開始から1年の間に、査読付き論文10件(うち国際共著2件)、招待講演12件(うち国際会議での招待講演8件)を含む50件余りの学会で成果発表を行っており、国際的にも高く評価される成果が得られている。
(A)電界センサの厳密な強度・位相較正法の確立:電界センサは、アンテナインピーダンス・実効長がプラズマ環境・測定周波数の関数となるため、実測データをプラズマ環境と紐づけて定量評価する必要がある。通常観測に加え定期的に実施するセンサ較正運用で取得したデータを元にプラズマ環境と関連付いた電界センサの較正を行う。(B)波形データの精密較正によるプラズマ波動の高精細解析:プラズマ波動の波形を連続取得したデータを「波形として」取り扱うには、センサ・受信器の伝達関数を用いた波形較正が必要である。現在、VLF帯の周波数帯の較正法はほぼ確立しているが、電磁イオンサイクロトロン(EMIC)波が観測される低周波帯は、伝達関数の周波数依存が大きいため、より綿密な較正と妥当性評価が不可欠である。そこで、同周波帯の較正法を確立し、全帯域にわたる波形データの高精細解析を実現する。(C)複数衛星・地上観測網との多点同時観測データを用いた波動の伝搬特性・波動粒子相互作用の研究:我々は、地上観測網やアメリカのVan Allen Probes衛星との同時多点観測条件下で、波形観測を重点的に実施してきた。これらのデータを利用して、コーラスやEMIC波動、雷起源ホイスラなどの伝搬方向やモード変換過程、プラズマ粒子との相互作用について、観測的に明らかにする。(D) DC 電場・低周波波動の研究:内部磁気圏の波動-粒子相互作用の解明には、背景場であるグローバルな構造変動・荷電粒子輸送を生み出すDC 電場・低周波波動(磁気脈動・Alfven波動)の網羅解析が必要である。あらせ衛星で観測したDCおよび低周波電場観測データを用いて、磁気嵐に伴うDC電場の変動や、低周波波動の解析を実施し、内部磁気圏内のグローバルな電場構造を明らかにする。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 2件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (53件) (うち国際学会 29件、 招待講演 12件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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