研究課題/領域番号 |
16H04057
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
能勢 正仁 京都大学, 理学研究科, 助教 (90333559)
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研究分担者 |
尾花 由紀 大阪電気通信大学, 工学部, 講師 (50398096)
桂華 邦裕 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10719454)
笠原 慧 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00550500)
寺本 万里子 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 研究員 (10614331)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 内部磁気圏 / イオン組成 / 磁気嵐 / 長期地磁気脈動 / ドリフトバウンス共鳴 / 酸素イオントーラス / 波動粒子相互作用 / イオン加速 |
研究実績の概要 |
イオンとULF波動のドリフトバウンス共鳴については、Van Allen Probes衛星のデータを解析し、異なる2地点の観測から波動の経度方向の波数を推定すると同時に、その時のイオンフラックスの変動を調べた。2014年3月2日のイベントについて詳細に調査したところ、経度方向の波数が-266とこれまでに報告されたことのないような大きな値となっており、その時の55-280 keVのプロトンフラックスの変動がドリフトバウンス共鳴理論で説明できることを明らかにした。イオンフラックスの空間的・エネルギー的勾配についての解析から、ドリフトバウンス共鳴を通して、波のエネルギーがプロトンに移動していることが推察された。このことは、イベント中に磁気嵐の回復割合が小さくなっていたことからも裏付けられ、ドリフトバウンス共鳴がリングカレントのエネルギーの増減に少なからぬ影響を及ぼすことが明らかになった。 酸素イオントーラス形成についての計算機シミュレーションを実施するために、ダイポール磁場およびTsyganenko 2005モデルを用いて、内部磁気圏の磁場を計算機上に再現した。低エネルギーイオンの軌道に大きな影響を与えると考えられる対流電場は、研究協力者でもある松井博士が衛星データに基づいて構築した対流電場モデル(UNH-IMEFモデル)を用いた。これらのモデル電磁場の中で、非常に低エネルギーの酸素イオンの軌道計算を行った結果、イオンは朝側方向に移動し、そこで長時間滞在するとともに、モデルで表現される複雑な対流電場構造に対応して複雑な軌道を描くことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ドリフトバウンス共鳴がリングカレントのエネルギーの増減に少なからぬ影響を及ぼす可能性についてはこれまでに議論されてきたが、データに基づいた実証はなされてこなかった。今回の研究により、イベント解析ではあるものの、世界で初めて衛星データと地上データを用いてこの影響を実証したことは大きな成果と考えている。現在、この成果を投稿論文原稿として用意しているところである。一方、Van Allen Probes衛星では、酸素イオンフラックス変動は22秒という長い時間間隔でしか調べられないため、酸素イオンとULF波動のドリフトバウンス共鳴については詳細な調査が行えなかった。 酸素イオントーラス形成についての計算機シミュレーションコードの基本的な開発は行えたと考えている。まだ単純なイオン初期分布からの計算ではあるが、発散することなくイオン軌道を追跡することができている。 以上の研究に派生して、Van Allen Probes衛星データを解析して、地磁気擾乱が生じた時に低エネルギーの酸素イオンがどのように数10 keVまで加速されるかの研究を進めることができた。こうした研究は、酸素イオントーラスを構成する低エネルギー酸素イオンがリングカレントにどのように寄与しうるかを考えるうえで重要である。この研究成果は学術論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
ドリフトバウンス共鳴については、現在準備中の論文を早急に学術論文に投稿し、成果発表を行う予定である。Van Allen Probes衛星では、データの時間分解能の制限から、酸素イオンとの共鳴はあまりはっきりと見つけることができなかったが、2016年12月に打ち上げられた日本のERG衛星のデータであれば、8秒という高時間分解能の特性を活かして、この問題に取り組むことができると期待している。特に、ドリフトバウンス共鳴のイベント解析に加えて、その統計的な特性(共鳴イオンエネルギー、発生場所、頻度など)を明らかにしたい。また、計算機上にULF波動の電磁場を再現し、その中でのイオンの軌道やエネルギー変化についても研究を進めようと考えている。 酸素イオントーラスの形成のシミュレーションについては、現実的なイオン初期分布を用いたり、地球のオーロラ帯やカスプ領域からのイオン流出過程を取り入れるなどして、トーラスの形成メカニズムや構成するイオンのエネルギー、形成されやすい場所などの詳細な研究を進める必要がある。同時に、衛星観測データを解析し、ULF波動の周波数とその場における電子密度を用いたプラズマ平均質量推定法を用いて、酸素イオントーラスの検出と、その経度方向の形状や磁気嵐のフェーズ依存性などを明らかにしていきたい。
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