研究課題/領域番号 |
16H04060
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
今村 剛 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (40311170)
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研究分担者 |
安藤 紘基 京都産業大学, 理学部, 研究員 (00706335)
中島 健介 九州大学, 理学研究院, 助教 (10192668)
林 祥介 神戸大学, 理学研究科, 教授 (20180979)
野口 克行 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (20397839)
小高 正嗣 北海道大学, 理学研究院, 助教 (60344462) [辞退]
杉山 耕一朗 松江工業高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (60463733)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金星 / 大気 / 重力波 / 電波掩蔽 |
研究実績の概要 |
重力波は小スケールながら惑星大気の大規模構造の形成に関わる重要な大気現象であるが、地球と比較して、同じく地球型惑星である金星と火星における重力波の理解は遅れている。そこで (1)高度分解能を1桁向上する新たな電波掩蔽解析手法によって、金星と火星の探査データを再解析する。(2)新たに得られた気温の高度分布から、臨界高度の近傍で砕波に至る短鉛直波長の重力波を抽出し、重力波の振幅・波長・砕波乱流層の分布を明らかにする。さらに (3)領域数値モデルとの比較のもとに、対流による重力波の励起、砕波にともなう重力波の特性変化、背景大気への影響を評価し、(4)惑星ごとの条件によって重力波の特性と役割がどう変わるのかを明らかにする。 初年度は金星探査機Venus Expressと「あかつき」の電波掩蔽データを解析し、金星大気中の微細温度構造の分布を求めた。日中よりも夜間において対流層の変動が大きく、対流層の直上の温度揺らぎが大きいといった、これまでに知られていない地方時依存性を見出した。電波ホログラフィ法による電波掩蔽観測データの解析にも取り組み、鉛直スケール数百mの弱安定層が多数存在することを見出した。このような層構造は臨界層の近くで砕波しつつある短鉛直波長の重力波によって生成することが考えられる。また、乱流現象の解明に向けて電波シンチレーション解析に着手した。観測データの解析と平行して、金星の対流と重力波励起の数値実験を行い、観測されているような鉛直スケールの小さな層構造が重力波によって作られる様子を再現した。3次元での対流計算を試行し、上昇流域に比べ下降流域がより局在化した対流セルが生じることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年に定常観測を開始した「あかつき」の電波掩蔽観測データを解析し、低緯度を中心に多地点での気温の分布を取得した。ここから、日中よりも夜間において対流層の変動が大きく、対流層の直上の温度揺らぎが大きいといった、これまでに知られていない地方時依存性を見出した。さらに、通常の方法では捉えられない微細温度構造を抽出するために、電波ホログラフィ法の一種であるFull Spectrum Inversion(FSI)によりVenus Expressの電波掩蔽観測データを解析し、鉛直スケール数百mの弱安定層が多数存在することを見出した。このような層構造は臨界層の近くで砕波しつつある短鉛直波長の重力波によって生成することが考えられる。「あかつき」の観測データへのFSI法の適用も開始した。加えて、乱流現象の解明に向けて「あかつき」電波掩蔽データのシンチレーション解析に着手した。 観測データの解析と平行して、金星の対流と重力波励起の数値実験を行った。高度領域を従来の40-60 kmから40-80 kmまで拡大し、対流によって励起される重力波の高高度への伝搬をシミュレートした。観測されているような鉛直スケールの小さな層構造が重力波によって作られる様子を再現することができた。これまでの2次元対流実験の結果を踏まえて3次元での計算も試行し、上昇流域に比べ下降流域がより局在化した対流セルが生じることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
電波掩蔽データ解析をより多数の観測について行い、臨界層の近くで砕波しつつある短鉛直波長の重力波や、結果として生じる薄い乱流層など、微細大気構造の緯度・高度・地方時に対する分布を明らかにする。 金星の雲対流の数値実験のために、硫酸を主成分とする雲の微物理パラメタリゼーションを開発し、これを流体力学モデルに組み込む。対流層に現れる雲密度の空間分布を「あかつき」などによる観測画像と比較し、その類似点からメカニズムを推定するとともに、相違点から雲微物理パラメタリゼーションの改良に取り組む。 対流の流速やセルの大きさが輻射による加熱の条件によってどう変わるかを調べ、これらの依存性に理論的説明を与える。また背景風の鉛直シアーを与え、ロール状対流など異方性を持つ構造がどのように現れるかを調べる。 対流層上端の大気安定度の構造をモデルと電波掩蔽結果の間で比較し、対流プルームが安定成層領域に与える力学的影響を考察する。 火星探査機Mars Global Surveyorの電波掩蔽による気温データと超高解像度の火星GCM(NICT黒田博士との共同研究による)の比較により重力波特性の解析を行う。 これらの結果をもとに金星と火星における対流励起重力波の比較を行う。波長・周期・振幅・減衰機構の違いを、観測と数値実験の相互比較をもとに解釈する。
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