研究課題/領域番号 |
16H04062
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
酒井 治孝 京都大学, 理学研究科, 名誉教授 (90183045)
|
研究分担者 |
平田 岳史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10251612)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ヒマラヤ / ナップ / レッサーヒマラヤ / フィッション・トラック法 / ジルコン / 熱年代学 / 変成岩 |
研究実績の概要 |
ヒマラヤの変成岩ナップとその下盤のレッサーヒマラヤ堆積物(LHS)および上盤のテチス堆積物(TS)の起源と20Ma以降の被熱・冷却履歴、およびナップ形成のテクトニクスを明らかにする目的で、ネパールヒマラヤにおいて熱年代学的、地球化学的、岩石学的、構造地質学的研究を行い以下の成果を得た。 1. LHSの起源については、玄武岩質・花崗岩質岩石の主成分・微量元素分析の結果、火成活動の場がプルームからリフトであり、超大陸の分裂に起源を持つ非活動的大陸縁辺の堆積物であることが判明した。 2. エベレスト山頂からヒマラヤ前縁のMBTに至る南北120kmに亘る測線に沿って、変成岩ナップとその下盤のLHSから得られた33試料について、ジルコンのFT年代測定を行った。その結果、ナップの先端の12MaからMCT直下の3Maまで年代は順次北方に若くなっており、その側方冷却速度は6~7mm/yと推定された。またエベレスト山を成す変成帯は、最上部の約4kmで15~12Maの間に下方に向け急冷(急速な上昇)、その下方では徐冷していることが判明した。さらにエベレスト山塊のテチス堆積物は、熱変成してないことが明らかとなった。 3. アンナプルナ山塊のヒマラヤ片麻岩類のザクロ石からナノ花崗岩包有物を発見した。ナノ花崗岩の存在は、変成帯が上昇の過程で脱水溶融反応によりメルトを生成したことを示し、電気石を含むナノ花崗岩包有物が発見されたことは、そのP-T-tパスから高ヒマラヤ花崗岩の形成過程を推定できることを示す。 4. 変成岩ナップあるいは変成帯の下限を画するMCTとその上限を画するSTD近傍のコーツァイトの石英の形状解析と岩脈・小断層の応力解析を行った。その結果、MCTの上盤と下盤の歪み速度は連続し、MCTで最大になること、またSTD近傍の応力解析の結果は、STDの走向に直交する水平引っ張り応力を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. レッサーヒマラヤ堆積物(LHS)の起源-----堆積物中に挟まれる玄武岩質と花崗岩質火成岩の産状と岩石学的研究から、島弧起源説とリフト起源説の2つが対立していた。これらの岩石のXRFによる主成分分析とレーザーICP-MSによる微量元素分析を行い、リフトあるいはプルームに起源を持つことが証明された。また東ネパールと西ネパールでは地域差があることが新たに判明した。 2. 変成岩ナップとその上盤・下盤の被熱・冷却史-----新たに東ネパール、エベレスト南方のレッサーヒマラヤの南北約70kmに亘る測線に沿って、ジルコンのFT年代測定を行い、初年度に得られた中央ネパールと同様な結果を得た。またナップが分布しないアンナプルナ南方のレッサーヒマラヤ堆積物について、FT年代測定とFT長分布の解析を行い、ナップが存在しない地域も過去にはナップに覆われていたことを初めて明らかにした。またこの地域北方のテチス堆積物についても、組織的にFT年代を求め、下部から上部へと年代が古くなることを初めて明らかにした。 3. ナノ花崗岩の発見-----ヒマラヤ片麻岩のザクロ石の包有物中に、ナノ花崗岩を発見した。これはヒマラヤでは2例目となるが、電気石を包有した物が本研究で初めて発見された。 4. 変成帯の上昇過程の研究-----MCT帯とSTDに挟まれて変成帯が上昇した時のメカニズムを解明するために、両断層周辺の古応力と歪みの解析を行い、運動特性を制約することができた。 これらの研究の成果は、地質学会、地球惑星科学合同学会などで発表され、一部の発表に対してポスター賞を得た。さらにヒマラヤ研究の最近の成果と考えをレビューした論文集を編集し、地質学雑誌の特集号として出版した。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 熱年代学的研究-----ナップ本体とその下盤・上盤の冷却パスを明らかにし、3つ地質体の被熱・冷却構造を明らかにするために、これまでにFT年代を得たジルコン粒子のFT長分布を測定し、その逆解析を行う。これまでに得られたレッサーヒマラヤ堆積物中に含まれる有機物について、赤外ラマン分光分析を行い最大被熱温度を求め、詳細な温度構造を明らかにする。さらにナップの分布しないアンアンプルナ南西に分布するジャジャルコット・クリッペを南北に横断する地質調査と試料採取を行い、被熱・冷却履歴を明らかにする。 2. レッサーヒマラヤ堆積物の起源に関する研究-----花崗岩質岩石中のジルコンのICP-MS分析では、酸分解時に溶け残りが生じた可能性があるので、アルカリ融解法を用いて、再度微量元素分析を行う。またマントル由来物質の存在を明確にするために、Nd/Hf同位体分析を行う。 3. 変成岩の部分溶融による花崗岩の形成プロセスの研究-----ザクロ石中のナノ花崗岩包有物の発見に努めると同時に、包有物を含む試料の温度-圧力-時間履歴を推定し、花崗岩メルト形成の時期を明らかにする。またMCT帯の多様な流体包有物の主成分と均質化温度を求め、流ナップ下底の剪断帯における流体移動の実態とその摩擦抵抗低減への寄与を明らかにする。 4. 構造地質学的研究-----アンナプルナ山塊南東部のマルシャンディー河沿いに分布する、変成帯の下限と上限を画すMCTとSTD周辺で調査を実施し、応力・歪み解析を行い、その結果に基づき従来の変成帯と変成岩ナップの上昇と前進に関するモデルを検証する。 5. 統合-----これらの研究の成果を統合し、ヒマラヤ山脈の形成過程に関する熱史とテクトニックスに関するモデルを提唱する。またこれらの成果を国内・国際学会で発表し、論文集として国際誌に公表する計画である。
|