研究課題
沈み込み帯で発生するスロー地震には、水が深く関与していると考えられている。しかし、スロー地震の物理的発生メカニズムはまだよくわかっていない。本研究では、間隙水圧比(静岩圧に対する水圧の割合)がスロー地震の発生と密接に関わっているという仮説を、地震発生域の熱水環境を再現した低~高速すべり摩擦実験によって検証したい。特に、「断層の摩擦特性が間隙水圧比の変動によってどのように変化するのか」ということを詳細に調べて、物質学的視点からスロー地震の発生機構の解明を目指す。平成29年度は、初年度に設置した回転式熱水摩擦試験のシール、載荷、昇温性能を確認するための予備試験を進めるとともに、粉末模擬断層試料をもちいて摩擦実験をおこなえるように試料ホルダーの改良と試料作製ツールの研究開発を行った。作成した試料ホルダーとスロー地震発生場に存在しうる物質を用いた予備実験は順調に進んでいるが、熱水条件下での実験を行うには労働安全衛生法に基づく第一種圧力容器の落成検査等の手続きが必要であり、最終年度前半に手続きを進める予定である。実際にスロー地震発生場でどの程度の異常間隙水圧が存在しているのかを調べて、その結果を実験条件に反映すべく、南海トラフ室戸沖のスロー地震発生場における間隙水圧を掘削時に観察された遷移的泥水フローの解析から推定することを試みた。その結果、室戸沖プレート境界直下で、静水圧より2~4 MPaほど大きな異常間隙水圧が推定された。この値は間隙水圧比に換算すると約0.4となる。今後この値を基準値として間隙水圧比を変化させて、水圧比と摩擦特性の相関関係を探る予定である。
2: おおむね順調に進展している
スロー地震の震源域では、プレート固着域浅部で100~150℃、プレート固着域深部で350~450℃の高温間隙水が存在すると考えられる。しかし、このような熱水条件下での低~高速実験はこれまで行うことができなかった。初年度に設置した回転式熱水摩擦試験機は、まさにこのようなスロー地震発生場の条件を再現できる世界で唯一の試験機である。最終年度までに、実験に用いるスロー地震発生場に存在しうる岩石の採取とその含有鉱物同定を完了し、また新たに作成した試料ホルダーを用いた予備試験も行うことができた。さらに、東北沖プレート境界の摩擦特性を実験的に決定し、東北沖で発生する普通の地震およびスロー地震の発生機構を議論した論文を公表した。おおむね研究は計画通りに進んでいる。
回転式熱水摩擦試験機の調整をさらに進め、スロー地震を実験室で再現することで、スロー地震発生の物理・化学プロセスの解明を目指したい。特に調整後、精度の良い実験ができるような状態になった際には、間隙水圧と間隙水圧比がどのようにスロー地震発生の断層の摩擦特性に影響を及ぼすのかを、自然界のスロー地震発生場の異常間隙水圧データなども参考にしながら詳細に調べたい。本格的に熱水条件下で実験を行うためには、熱水圧力容器を第一種圧力容器として労働監督基準署から認可してもらい、設置届・落成検査を受ける必要がある。特殊な試験機であるため、設置している圧力安全弁などが所轄労働基準監督署で認可されるか不透明であったが、労働基準監督署とボイラー協会に掛け合い法律的な問題はほぼ解消された。今後、法律を遵守しながら粛々と検査および手続きを進めていく予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件)
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 1 - 9
10.1038/s41598-018-20870-8
地質学雑誌
巻: 124 ページ: 47 - 65
10.5575/geosoc.2017.0069
GEOPHYSICAL RESEARCH LETTERS
巻: 44 ページ: 8822 - 8831
10.1002/2017GL073460
巻: 44 ページ: 1 - 9
10.1002/2017GL075127
地盤工学会誌
巻: 65 ページ: 70 - 77