研究課題
平成28年度は統合国際深海掘削計画第342次航海にて,カナダ・ニューファンドランド島沖合から採取された深海底堆積物試料の乾燥,洗浄行い,堆積物中に保存されている浮遊性有孔虫化石を抽出することを主たる作業内容とした.これまで一般に行われてきた,30個体程度の浮遊性有孔虫化石をまとめて1試料とし,炭素・酸素同位体比を分析する手法と異なり,本研究では浮遊性有孔虫1個体ごとの炭素・酸素同位体比分析を行う.この手法では,測定対象となる1個体ごとの化石の保存状態を均質に保つ必要があることから,保存状態の良い化石を慎重に抽出する必要がある.そこで,まず,高倍率での高解像度の観察が可能な実体顕微鏡下において,視覚的に殻の保存状況の判断を行った.保存状況は,A)化石の殻が透明であり,殻の内部にも白濁や混入物のない個体,B)化石の殻は透明であるが,殻の内部が一部白濁している個体,およびF)殻全体が白濁しており,透明性がない個体,の3つに区分した.本研究では,海洋の表層付近に棲息していた種を分析対象とし,これまでに約700個体の殻を抽出し,殻の保存度を決定した.次に,これらの保存状態を示す化石について,走査型電子顕微鏡下で殻の保存ないし溶解状態の確認を行った.その結果,保存度A,B,およびFのいずれの個体も殻そのものは初生的に保存されていたものの,F個体では殻内部に存在する続成由来の結晶の分離が困難であることがわかった.これらの観察の結果,漸新世の一部の層準においては,分析に適した保存の標本を十分な個体数得ることができなかったが,概ね全層準から保存良好の試料が得られることを確認した.
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は堆積物試料の真空凍結乾燥に使用していた機器に不測の故障が生じた.その結果,当初平成28年度に完了を予定していた化石の保存状態の観察が遅延することとなった.平成28年12月には機器が復旧し,試料の乾燥および浮遊性有孔虫化石の抽出作業を再開した.以降,作業は順調に経過し,平成29年8月までには化石の抽出および実体顕微鏡,走査型電子顕微鏡下での観察に加え,有機分析に用いる試料の乾燥についても完了した.これにより,平成29年度以降に予定している,浮遊性有孔虫1個体ごとの炭素・酸素同位体比分析のための試料調製と,有機分子抽出のための試料調製が概ね完了した.
平成29年度以降は,洗浄済みの試料から炭素・酸素同位体比分析に用いる種の追加抽出を進めると同時に,1試料中に含まれる浮遊性有孔虫1個体ごとの炭素・酸素同位体比分析を行い,その分散の検討を行う.1試料中において複数個体を分析した際の分析値の分散は,ある分析個体数を超えると一定の値に収束すると想定される.そこで,その収束に必要な個体数,すなわち1層準あたりの最低必要個体数を検討する.この検討の後に,各層準で分析に必要な個体数を決定し,順次分析を進めることとする.これと並行して,有機分子抽出用に取り分けた堆積物試料から有機分子の抽出を行う.抽出された有機分子を分画し,精製ののち,予察的な有機分子組成の解析を開始する.平成30年以降は,上記の解析をより本格化させ,浮遊性有孔虫化石の1個体ごとの炭素・酸素同位体比分析と有機分子の分析から,始新世/漸新世境界における氷床形成のタイミングと海水温変動との関連を議論する.
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Climate of the Past, Discussion
巻: - ページ: 1-21
10.5194/cp-2016-51
Paleontological Research
巻: 20 ページ: 268-284
10.2517/2015PR036
Marine Micropaleontology
巻: 122 ページ: 44-52
10.1016/j.marmicro.2015.10.003
Proceedings of the Integrated Ocean Drilling Program, 342
巻: - ページ: -
10.2204/iodp.proc.342.204.2016
http://www.waseda.jp/sem-paleobiology/index.html