研究課題
フィリピンのピナツボ火山から採取されたマントル捕獲岩中の流体包有物には、5重量%の塩水と炭酸塩鉱物、含水鉱物が存在することから、スラブ流体は二酸化炭素を含む塩水であると提案した (Kawamotoほか 2013 Proc Natl Acad Sci USA)。今回、新規導入したラマンイメージング装置を用いて、ピナツボのマントル捕獲岩の観察を行うと、それらに加えて硫酸イオンと硫酸塩鉱物が存在することに気づいた。ピナツボの捕獲岩のハロゲン元素のデータによると、流体包有物は海洋堆積物の間隙水を起源に持つ蛇紋岩の脱水分解により生成されたと考えられる(Kobayashi ほか 2017 Earth Planet Sci Lett)。蛇紋岩中には硫化物と硫酸塩鉱物の形で存在する(Altほか 2012 Earth Planet Sci Lett)ので、硫化物が酸化されるならば硫酸イオンと硫酸塩が見出されたことと矛盾しない。また、ピナツボ捕獲岩中の角閃石は鉛に富み、これは塩水の影響と提案していた (Yoshikawaほか 2016 Lithos)が、鉛は硫黄によって動き易い元素であるため、塩濃度に加えて硫酸イオンの影響かもしれない。1つの硫酸イオンは8つの鉄の2価を3価に酸化する強力な酸化剤だから、硫酸塩や硫酸イオンはマントルウェッジを酸化する役目を果たしているだろう。沈み込み帯のマグマは中央海嶺玄武岩よりも酸化的と考えられている(Kelley and Cottrell 2009 Science)が、その原因のひとつにスラブ流体の硫酸イオンがあると提案する。さらには、カルクアルカリ岩系列のマグマの成因が共存するソレアイト岩系列よりも酸素フュガシティが高い (Miyashiro 1974 Am J Sci) 原因として、スラブ流体の硫酸塩と硫酸イオンが関与する可能性を指摘したい。
1: 当初の計画以上に進展している
新規導入したラマンイメージング装置により、流体包有物の2次元、3次元の分布や構成物の同定を行うことができた。時間はかかるが、一つずつデータを集めることによって、試料中の多くの流体包有物の化学種と表面からの深度や大きさなどを記載することができるようになった。この結果、当初想定していなかった硫酸塩鉱物や硫酸イオンの存在に気づいたことはたいへん大きな成果であった。
今年度もラマンイメージング装置を用いることで、多くの岩石中の流体包有物の化学種の記載を行って行きたい。また、流体包有物の結晶表面からの深度や大きさを精確に知った上で、冷却し結晶をイオン研磨で削り、固化した流体包有物の表面を電子顕微鏡で観察、化学分析する実験に着手する予定である。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Earth and Planetary Science Letters
巻: 457 ページ: 106-116
10.1016/j.epsl.2016.10.012
in: White, W.M. (Ed.), Encyclopedia of Geochemistry: A Comprehensive Reference Source on the Chemistry of the Earth, Springer International Publishing
巻: 1 ページ: 印刷中
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