研究課題/領域番号 |
16H04076
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
神崎 正美 岡山大学, 惑星物質研究所, 教授 (90234153)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テラヘルツ / ラマン分光法 / ソフトモード / 鉱物 / 地殻流体 / 相転移 / 局所構造 |
研究実績の概要 |
本年度は、まずAlPO4の高温その場ラマン測定を行なった。実は、この実験は数年前から何度か実施しており、100 cm-1以上の高周波数側では十分なデータが既にあり、ハードモードからは相転移があることが分かっていたが、出るはずのソフトモードが観察されないことから論文化を躊躇っていた。今回、本科研費によるCCD検出器の更新等による装置の高感度化(前年度実施)により、これまでよりも優れたラマンスペクトルが測定できるようになり、初めて低周波数領域(テラヘルツ領域)におけるソフトモードの観察に成功した。ソフトモードは温度により低周波数側に移動して、転移点である約420度で消滅した。その振動数の温度依存性はLandauモデルでよく再現できた。また、第一原理計算により、ソフトモードの振動モードを計算し、それが相転移機構とよく対応することを示すことができた。 二酸化炭素を含む天然melanophlogite(SiO2)は水のclathrate Iと同じ構造であり、比較的大きなケージを構造中に持つ。ゼオライトの一種でもある。昨年度、この鉱物に低周波領域で強いラマンピークを初めて発見した。この低周波数ピークの原因を探るために、高温その場実験を実施した。二酸化炭素の振動ラマンピークも観察されるため、二酸化炭素の脱離の様子が同時に観察される。その結果、二酸化炭素は500度から減少し、800度で完全になくなった。同時に低周波数ピークもなくなった。したがって、このピークはケージ中の二酸化炭素のlibrational modeによると考えられる。他研究者により報告されている低温での比熱異常とこのピークが関係付けられそうである。 また、MgSiO3輝石の急冷した輝石相の同定にもこのラマン装置を使用した。プロト輝石には低周波数領域に特徴的なピークがあり、それを使って同定を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AlPO4の高温相転移の観察について、何度かの試行錯誤の結果、ソフトモードを明瞭に観察することに成功した。第一原理計算も行い、ソフトモードの振動モードを明らかにした。その結果をまとめた論文は現在印刷中であり、米国人査読者からは、"The paper is extremely well-written and organized, one of the best-written that I have seen in a long time."と評価された。 また、上記のように二酸化炭素を含む天然melanophlogiteについて、高温のその場ラマン測定を実施して、低周波数領域の強いラマンピークがケージ中の二酸化炭素のlibrational modeによることを明らかにすることができた(論文は投稿中)。 さらに、MgSiO3輝石の常圧下での急冷相にプロト輝石がかなり含まれていることを報告したが、その相の同定にも低周波数領域が有効であった。この論文は既に公表されている。 一昨年は近くで強い地震があったが、ダメージなしで、本研究についてはそれに伴う遅延もなく、想定外のトラブルも生じておらず、これらのことから順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度が最終年度となる。これまでは室温と高温その場測定を行ってきたが、最終年度はそれを高圧・高温その場条件に拡張する。高圧下での測定には、ダイヤモンドアンビルセルを使用するが、ダイヤモンド面でのレーザーとラマン散乱光の反射/吸収等のため、室温の測定よりも条件的に難しくなるが、我々の自作顕微ラマンシステムはそれに十分対応できると考えている。高圧誘起相転移の中にも、高次転移でソフトモードが期待できるものがあり、そのような相転移の観察をすることを予定している。具体的にはrutile/CaCl2転移を考えている。 また、地殻流体の高温高圧その場測定も予定している。最初に水を測定する。水については多数の分光研究が既にあるが、高圧高温その場のテラヘルツ領域ラマン測定はほとんどない。水については液体/液体相転移が提唱されているが、ちょうどその付近の温度圧力領域で実験を行なって、低周波領域に変化が見られるか、この仮説が正しいかどうかを調べる。さらに、含水ケイ酸塩メルトの測定を予定している。ガラスに関しては、低周波数領域で特徴的なボソンピークの存在が知られているが、ケイ酸塩メルトやフルイドの低周波数領域はほぼ未開拓の領域であり、ボソンピーク的なものが存在するのか、非常に興味が持たれる。一方、それらの低周波数ピークの解析方法は全く確立しておらず、進んでいる水の研究を参考に解析方法を考案する必要がある。さらに第一原理計算も並行して実施して、実験結果と合わせて議論する。
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備考 |
本研究で改造している顕微ラマン分光法装置やその成果について、wikiを使って情報を発信している(上記URL参照)。顕微ラマン分光法と低周波数ラマン分光法のページを作っている。顕微ラマン分光法ページには5.8万件のアクセスがあり、英語版も作成した。Googleで「顕微ラマン分光」で検索すると、トップ10にこのページが表示され、広く情報発信が出来ていると考えている。
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