研究課題
本年度では、本研究で検証する稍深発・深発地震発生メカニズムの仮説を実験的に検証するのに必要となる“マイクロAE測定システム”の開発を行った。当システムでは、従来よりも微小破壊音(AE)の信号/バックグラウンド強度比(所謂S/N比)を改善することにより、震源位置決定における誤差を向上させることを目指している。そのために、以下3つの作業をおこなった。①ヘッドアンプ対応型信号増幅システムの構築:ヘッドアンプ対応型プリアンプ及び電磁式同軸ケーブル切り替えスイッチの2種からなる増幅システムの構築・立ち上げを行った。本年度までに当システムが動作することを確認した。②ヘッドアンプ搭載型AEセンサの動作確認:ヘッドアンプ及びプリアンプからなる2重の信号増幅システムによって、2-4 MHzの周波数の信号が40dB程度に増幅されることを確認した。③高圧下で発生したAEの測定テスト:D-DIA型変形装置を用いて石英ビーズ試料から発生するAEの測定実験を行った。同様の実験にて、従来のシステムで検出可能であったAEイベントが2000件程度であったのに対し、当システムでは8000件以上のAEイベントを検出することに成功した。このことは、これまでに検出できなかったような微弱なAEイベントが検出可能になったことを意味する。また、従来のAE測定システムを用いて、スラブ内浅部の温度圧力条件下(1-3 GPa, 600-1100℃)におけるカンラン岩の変形実験をSPring-8にて行った。一定以上の歪速度(1E-4 /s)にて、試料の変形に伴ってAEが発生することが確認されたほか、最終的には断層を形成して破断に至るという半脆性挙動が確認された。断層形成の際には局所的な温度上昇(断熱不安定)が重要な役割を果たしていることが回収試料の組織観察から確認された。
2: おおむね順調に進展している
本年度において、マイクロAE測定システムを構成する機器類の導入を全て完了した上、D-DIA型変形装置と組み合わせて高圧下でのAE測定のテスト実験を行える状態にまでシステムを組み上げることに成功した。また、そのシステムが正常に動作することを確認できた意義は大きいと考える。また、次年度(平成29年度)に行う予定であったスラブ浅部条件下でのカンラン岩の変形実験を前倒しして行い、かつ断層形成と断熱不安定性に密接な関係があることを見出したことは、稍深発地震発生の素過程を解明することに直接結びついているため、意義が大きいものと考える。なお、この成果は国際誌にて公表するために現在取りまとめを行っている最中である。なお、マイクロAE測定システムの動作確認が終了したものの、当初の目標であるミクロンオーダーの震源位置決定精度を達成するためには、測定に用いる信号の周波数の最適化や震源位置決定のためのプログラムの改良が必要不可欠である。これらについては次年度以降に残された課題となっている。
次年度以降も、マイクロAE測定システムが当初の予定通りの性能(ミクロンオーダーの震源位置決定精度)を達成できるように、必要な技術開発を継続して行っていく。マイクロAE測定システムが次年度以降も開発中の状態となるため、SPring-8における放射光実験は、従来のAE測定システムを用いることによって当面は対応することとする。ただし、稍深発地震発生の素過程を解明することに直接結びついている成果が現状で得られつつあるので、まずはこの成果を国際誌にて公表することを最優先課題として進めていく。
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Earth Planet. Sci. Lett
巻: 454 ページ: 10-19
10.1016/j.epsl.2016.08.011