研究課題/領域番号 |
16H04078
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
遊佐 斉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (10343865)
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研究分担者 |
平尾 直久 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 研究員 (70374915)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 鉱物物理 / X線回折 / 高圧 / 差応力 |
研究実績の概要 |
本研究においては、固体圧力下での、最大主応力軸および最小主応力軸のみならず、広い範囲の方位角において粉末X線回折データを取得し、差応力解析を速やかにおこなうシステムを構築することを試みている。それを基に、超高圧力実験における圧力と応力の関係を再考察し、汎用的応力・圧力スケールの再検討をおこなうことを目的としている。また、選択配向の決定による構造解析への応用、高圧下でのアニールによる歪み除去効果の定量的な考察といった、高圧実験で今まで放置されがちな、固体圧力下での高圧実験の諸問題について、測定技術的側面から総合的解決を試みている。昨年は、広方位高圧下応力解析装置を設計・試作し、装置を動作させるためのリモートプログラムの作成をおこない、さらに広開口DACをから作成した改造型多方向ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を製作し、当初の予定通り、SPring-8(BL-04B2)に設置し装置の動作確認をおこない、精度良く、最大主応力軸方向を入射X線方向に合わせこむことを可能にした。本年は、新規に制作した多方向DACの性能試験をおこなうとともに、実際の対象物質を用いて応力解析実験をおこなった。その結果、非静水圧下で一軸加圧したMgOまた、同装置は高圧下の試料配向に対する回折強度不均一の問題にも切り込むことが可能となり、例えば、高配向性物質で最近注目を集めている、MoS2等の二次元層状物質の高圧挙動についても追跡することが可能となった。本年は、これらの結果を国内の学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、広方位高圧下応力解析装置の設計・製作および新規設計開発した多方向広開口DACの導入により、実際に応力解析実験が可能になった。本装置ではDAC重心位置の適切な検討や精密エンコーダーを設けるなどの工夫により、従来のこの種の実験では得られなかった高精度の高いラジアル回折実験が可能になった。単純構造物質のMgOについて15GPaまででおこなった応力解析の結果は、可減圧に伴う差応力の変化が正確に追跡され、加圧時に比べ減圧時の差応力分布のほうが急峻であること、および減圧後も室温で残留応力が残存することが観察された。当初の解析対象に加え、高配向性二次元層状物質のX線回折実験においても本装置により解決策が見いだされた。従来の方法では、結晶配向と入射X線の幾何学的な関係により、層間の情報が大幅に欠如するため、層間相互作用の追跡が困難であったが、加圧軸から―70°の方向からX線を入射することにより層間の回折線を回折強度の再現を確保しながら観測することが可能となった。この方法により、当初懸念された、ベリリウムガスケットからの回折やX線透過性についても、幾何学的にその影響を最小限に抑えることができることが確認できた。このように、研究は順調に推移しているが、本実験は放射光施設の強力なX線を使用することで成立するものである。よって、研究の進展はマシンタイムの確保の有無に大きく左右される。対策として、近年の競争激化による共用ビームラインでの実験時間の減少にあらかじめ対応するべく、類似の装置をNIMS専用ビームラインに設置することで、予備実験環境を構築中である。この装置には、改造前のDAC多軸揺動装置の残存部品をリサイクルすることで可能な限り経費を抑えて構築している。
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今後の研究の推進方策 |
本年は、NaCl等のB1-B2構造相転移への緩和を含めた差応力効果の追跡や、ポストペロブスカイト転移が室温で進行するフッ化物ペロブスカイトの相転移実験など、構造相転移に伴う応力変化等を追跡することに主眼をおくが、対象圧力の上昇に伴い幾つかの方策を講じる。 昨年までは、15GPa程度までの領域でラジアルX線回折実験を主におこなったが、20-30GPa以上の圧力で、実験中に回転中心のずれが観察された。これは、加圧中のダイヤモンドの変形が影響しているものと考えられる。このような僅かなずれが観察されたことは、装置が高精度であるゆえのものであると考えられる。対策として、試料位置を正確に把握するために、露光時間のかかるイメージングプレートに変えて、高速露光が可能なフラットパネル型CMOS検出器を借用し、試料位置を微動させながら複数枚取得することによる解決を考えている。 実験を当初懸念された、ガスケットからの回折やX線透過性についても、入射方向を工夫することによりその影響を最小限に抑えることができた。本年は、ガスケットに更なる工夫をおこない、可能な限り試料からの回折X線の妨害要因をなくすことを試みる。 さらに、放射光マシンタイムの激化対策として、NIMS専用ビームライン(Bl15XU)に導入した類似装置に、検出器の精密位置決定装置を導入して、共用ビームラインでの実験精度に近づける方策もおこなう。
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