研究課題
始源的隕石コンドライトや地球型惑星の元素組成は,初期太陽系での元素分別過程で決定されたと考えられる.主要元素Mg, Siの分別過程の鍵となるのは,フォルステライト(マグネシウムに富むかんらん石:Mg2SiO4)とケイ素に富むガスとの反応によるエンスタタイト(マグネシウムに富む斜方輝石:MgSiO3)形成による固体Mg/Si比の変化過程である.本研究では初期太陽系を模擬した低圧条件でエンスタタイト形成実験をおこない,その反応速度を決定する.結果を基に初期太陽系でのエンスタタイト形成効率を推定し, Mg/Si分別が起きる条件およびコンドライトと地球の元素組成の関係を議論し,地球材料をつくった結晶分化の残渣がエンスタタイトコンドライトであるという新たな仮説を提案し,妥当性を検討する.平成28年度はエンスタタイト形成反応の基板となるフォルステライト形成実験を効率よく進めるため,現有の真空赤外線集光加熱炉を改造し,その性能評価をおこなった.ガラス管チャンバー保持機構,サンプル導入部,水蒸気供給系をそれぞれ改良し,真空度の向上,サンプル交換・水蒸気導入の簡便化をおこなった.改良した装置の性能評価のために,フォルステライトの低圧水素中,低圧水素ー水蒸気混合ガス中での蒸発実験をおこない,装置改良が予定通りおこなわれたことが確認された.また,装置改良を評価する過程で水蒸気存在下ではフォルステライト蒸発が抑制されるというこれまで予想されてきた現象が実際起こるということが実証された.
2: おおむね順調に進展している
エンスタタイト形成反応の基板となるフォルステライト形成の効率化のため,現有の真空赤外線集光加熱炉の改造をおこなった.ガラス管チャンバー保持機構,サンプル導入部,水蒸気供給系をそれぞれ改良し,真空度の向上,サンプル交換・水蒸気導入の簡便化をおこなった.改良した装置の性能評価のために,フォルステライト(Mg2SiO4)の低圧水素中での蒸発実験をおこなった.これまで低圧水素中でのフォルステライト蒸発実験は我々のグループを含め,多くの研究がおこなわれ,蒸発挙動がよく調べられているためである.低圧水素存在下でのフォルステライト蒸発実験から,装置改良が当初の目的を達するようにおこなわれたことが確認された.また,低圧水素ー水蒸気下でのフォルステライト蒸発実験もおこなった.水蒸気存在下ではフォルステライト蒸発が抑制されるとこれまで予想されてきたが,実際に確認はされていなかった.水蒸気存在下では蒸発速度が一桁程度減少したことが確認され,本実験により,蒸発の抑制が実際起こるということが初めて実証された.
改良した装置で効率的にフォルステライト基板作成を進める.基板作成とともにフォルステライト成長速度の過飽和比依存性を決定する.これまでにある程度のデータは蓄積してきたが,本研究課題の中で確定させる.エンスタタイト形成実験をより効率的に進めるため,レーザーデポジション法で非晶質フォルステライトを作成し,結晶化させたものを基盤として用いることも検討する.これらの基盤を用いて,エンスタタイト形成実験をおこなう.反応生成物は電界放射型走査型電子顕微鏡,エネルギー分散型X線分光,電子線後方散乱回折で評価ののち,集束イオンビーム加工装置で切片を作成し,透過型電子顕微鏡での観察,分析をおこなう.反応生成物,反応層厚みなどの時間変化から,エンスタタイト形成速度を決定する.
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Geochim Cosmochim Acta
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